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No63177 の記事


■63177 / )  ひぐらしのなく頃に・遊び倒し編「第一次スーパー雛見沢WAR」
□投稿者/ コロン -(2008/03/06(Thu) 00:06:13)
    2008/03/08(Sat) 02:16:40 編集(コロン)




    めっちゃめちゃお久しぶりです。コロンです。
    遅くはあれど日々ちまちまと書き綴っている、遊び倒し編の新しいお話を開始します。
    なお、遊び倒し編では、前作を読まなくても、
    一話一話独立したお話として楽しめるようになっております。(そのつもりです汗)



    祭囃し編までネタばれ注意。
    さらに、今回の作品には、少しではありますが〜うみねこのく頃に〜に関する表現がちらほらと目につく部分もあります。
    本当に細かな文章表現での面の事なので、それほど問題ではないのかもしれませんが、もしかしたらネタばれの可能性もございますので、一応、うみねこエピソード1&エピソード2を未読の方は、本作を読まれる時は、どうか各自の判断で十分ご注意ください(礼)。




    「前作」

    遊び倒し編

    1、「梨花ちゃんの憂鬱」

      No59575,59663,59781,59843,59939


    2、「ねこピタンX事件」+「シュークリームお疲れさま会」

      No59986,60092,60159,60307,60338


    3、「悪魔来日 〜Welcome to Hinamizawa!〜」

      No60417


    4、「オヤシロキッズカンパニー・今日も頑張ってますです奮闘記☆」

      No61903,61956,62345




      ■はじめに■

    さて、では今回のお話を始める前に、少し長いですが前書きを……(−−;
    今回はですね、遊び倒し編に登場する各キャラクターが、敵とドンチャン場外乱闘するような(いつも場外乱闘してるような気がするけど;)、少年アクション漫画のようなノリでいきたいと思います。
    遊び倒し編に登場するひぐらしキャラの戦闘能力を、思う存分に発揮できるお話が書いてみたいな〜って以前から思っておったところなんですよ。
    なにしろ彼らは素の戦闘能力が強すぎるので……どうもまともに戦える相手が、この地球上には存在しそうにありませんでしたので……。

    『遊び倒し編・第一次スーパー雛見沢WAR』

    上記のように、タイトルには『第一次スーパー〜』などと書かれてありますが、某会社から発売されておる、巨大ロボットものを主体とするゲームのような……そのようなゲームを模したパロディ作品ではございませんので、そこら辺はご注意下さーい……(−−;
    ただし、この物語には巨大ロボットを登場させても特に差し支えはなさそうなので、
    私の(いい加減で気まぐれな)ノリと気分次第では、もちろん、巨大ロボットが登場する可能性も大いにあるわけです。
    今回は戦闘描写の練習も兼ねてやっていきたいと思います。
    話にまだまだ詰めきれてないところが、ちらほらとありますが、まあそれは修行不足のご愛敬ということで……。
    それにしても、ページ数がかなりすごいことになってます。
    試みに序盤の三場面を書いてみたのですが、その場面を書いただけでも拙作悪魔来日の完結よりもさらに長くなってしまいました……。
    かつてない長編になりそうな予感がしますが、この頃だんだん文章が冗長になってきているような気がして嫌な感じです。
    本音を言うと、もっと短く、簡潔に、文をまとめられるようになりたいです。
    なお、とある漫画の表現を激しく借りている場面もございます。
    それと、この作品は私の拙作『ねこピタンX事件』と、ネタの面で少しだけ繋がりがあるので、
    先にそちらを読まれていると、もっと楽しめるかもしれませんね(もちろんそちらを読んでいなくても、本作は本作で独立して楽しめます……そのはずです;)。
    また今回のお話は、得体の知れない登場人物が多数登場するため、
    その情報不足を補う意味で、TIPSを作ることにします。
    物語が進むたびにせこいTIPSをちまちま置いていきたいと思っています。
    あと、物語の最初にある、五つの――予告編――ですが、これは伏線的な意味合いは特になく、
    物語の始まりに箔をつけられたらなぁ、と思ってくっつけただけの、ただの煽りです;
    では、長々となりましたが、「……何じゃこれ?」と興味を持たれましたならば、第一次スーパー雛見沢WARの世界をじっくりとご堪能くださいませ。
    あ、もう一度念を押して言いますが、
    今回の作品は、うみねこ的な文章表現を使っている部分もちょっとありますので、
    もしかしたらネタばれの可能性もございます。
    一応、うみねこエピソード1&エピソード2を未読の方は、
    本作を読まれる時は、どうか各自の判断で十分ご注意ください。

    ではまずは序盤の三場面を提供いたしまっす。
    ……いえ、何にしろ、コメディなんですけど。






       ・第一次スーパー雛見沢WAR・





           ――予告編――


     人類の歴史とはまことに複雑かつ怪奇なものでありまして、未だに誰もが夢というものを追いかけながら、宇宙の彼方や空なんぞに様々な想いを馳せております。少し例をあげるとしましたならば、今日もまた、やれオッシーだの、UFOだの、異星人の襲来だの、地底人の侵略だの、細菌兵器での無差別テロだの、だの、だの……一度羽ばたきはじめた誇大妄想の翼はもはやとどまることを知らず、日々拡大する一方でありまして……

    「けーいちくーん」

     ここに、いつもと何らの変わりもない日常を過ごしている一人の女の子がおりました。女の子は普段からアクセサリーである鉈をひっさげて、今日も不幸な誰かさんの頭をかち割ろうとしながら……いえいえいえ、頭を優しく撫でてやりながら、いい仕事をしたなとほくほく顔です。

    「あの、レナさん、凶器を目の前にちらつかせながら歩くの、やめてほしいんですけど」

     ここに、いつもと何らの変わりもない日常を過ごしている一人の男の子が言いました。

    「今日は危なかったんだよ、だよ? 梨花ちゃんの目つきがいつもと違ってたからね」

    「それはいいんすけど……この危なっかしい鉈とは一体どういう関係が……?」

    「圭一君、もうちょっとで梨花ちゃんにマインドコントロールされて、拉致されるところだったんだよ? 本当に危なかったねー」

    「いや、梨花ちゃんは単に、俺達に飯の残りをわけたかっただけだと思うが……じゃなくて、だからこの突然つきつけられてる意味不明な鉈とはいったいどういう関係がっ……」

     こんなふうにほのぼのとした風景が流れ過ぎていきます。
     すると女の子が人差し指を空の彼方へ示して、こう言いました。

    「あっ、圭一君、一番星!」

     女の子に促されて男の子も空を見上げました。

    「本当だ」

     男の子は珍しいものでも発見したかのように、目を丸くしながら、女の子に答えました。

    「でも、何か、嫌な感じのする光だね……」

     女の子は一番星をまじまじと見つめていましたが、その顔付きはだんだんと険しいものになっていきました。

    「どしたんだレナ?」

    「ヒナミザワ星人……」

    「は……?」

    「ついに、来たんだ……」

    「……あのー、レナさん?」

    「あああああああああああついにこの日が来てしまった! どうしよう圭一君! どうすればいいの!?」

    「いや、どうしようって言われても」

    「何呑気なこと言ってんの、前原圭一っっっ?!! この雛見沢はオヤシロ様型宇宙人に乗っ取られちゃうっていつも言ってるでしょっっっ!!?」

    「あれ、ヒナミザワ星人じゃなかったっけ?」





     ふぉんっ!!! ぐしゃっ!!!





    「あああああああどうしようどうしようどうしようどうしたらいいの圭一君っ?!!」

    「……うーむ、取りあえず鉈でどつくのだけはやめようなぁ、レナ」

     いつもとは少し違う、不穏な空気の漂う帰り道でした。女の子は息を飲んでいました。そのすぐとなりで、男の子は不思議そうに空を見上げていました。












           ――続・予告編――


    「ふわーあああ、退屈ねえー」

    「梨花、大あくびはみっともないですわよ」

    「あう、沙都子の言うとおりなのです」

    「だって暇なんだからしょうがないじゃない。そうだ、食後の気分転換にトランプでもやりましょうか」

    「賛成ですわー!」

    「あう〜、僕は大富豪が良いのです!」












           ――続々・予告編――


    「ふう」

     園崎邸の縁側で、園崎家次期党首、園崎魅音が柄にもなくため息をついていた。
     珍しいことである。
     普段のアグレッシブな彼女からは想像もつかない姿だった。しかしこの静謐とした素顔こそが、彼女の本来の表情を映し出していると言えるのかもしれない。

    「ああ、今日もまた一日、何となーく終わっちゃったなあ」

     魅音は呟く。この頃、何だか明日のことばかり考えて、『今』を純粋に楽しめない。心が不意にカラッポになったみたいに、希薄だった。魅音は今しばらく縁側でくつろぐことにして、夕刻の空を見上げた。

     一番星だ。

     彼女はまじまじとそれに見入った。
     一番星だ、一番星、私の瞳を綺麗に照らすお星様だ。でもあの星は何だか嫌な感じ。何か、見ていると気が滅入ってきちゃうなあ。はぁ。
     ぼんやりしていると、時はいつの間にか流星のように素早く流れており、暗くなりはじめた村の景観を目に焼き付けながら、魅音は自分の部屋に戻るのだった。












           ――続々・続・予告編――


    「悟史君、今日は君をお家へは帰しませんよ……?」

    「むぅ? その微妙に際どそうで、でもただのお馬鹿としか思えない台詞、いったいどこで覚えてきたの、詩音?」

    「うわーん、どうしていつもそうやってはぐらかすんですかー!」

    「うーん、きっとそういう仕様になってるからだと思うよ」

    「くううううううううううううう! あんのひねくれ作者のコ○ンめ! いっぺん綿流されてえかあああああああああああああああ!」

     ひいいいいいいいい! おお、怖っ……。












           ――裏・予告編――


    「ええっと、そのクイーンをビショップでとります」

     深まる夜、山狗新隊長の鶯1、黒崎彰吾くんと鷹野三四はチェスをしていた。

    「ちょっと黒崎」

     鷹野がこらっと因縁をつけるような顔付きで、黒崎に言う。

    「そうじゃないでしょ。あなたはこっちの寂しそうなポーンちゃんを動かすの」

    「え? いやだって……」

    「え、いやだって、じゃない。あなたはこっちの寂しそうなポーンちゃんを動かすの」

    「三佐、そりゃいくら何でも横暴……」

    あなたはこっちの寂しそうなポーンちゃんを動かすの。給料さっ引かれたいの?」

    「ハイ……こっちの寂しそうなポーンちゃん動かします……」

     また鷹野の子供じみたズルが始まって、黒崎くんはくにゃっと疲れてしまった。
     鷹野三四と何かゲームをして遊ぶのは本当に疲れることだ。
     ボロ勝ちしても駄目、ボロ負けしても駄目、そして最後には必ず鷹野を勝たせてあげなければならない。こんな不毛なゲーム展開って……黒崎くんは今日も何度目かのため息をはいた。

    「そういえば黒崎、この前、知り合いにあなたのこと話したんだけどね、あなた、その人にたいそう気に入られちゃったみたいよ」

    「はあ、俺がですか」

    「ええ、六○島ってところに住んでる人でね。あなたのこと話したら、『くっくっく〜、それは活きのよさそうな男じゃの〜。是非とも妾の下僕か、生け贄にほしいものよの〜、くっくっく〜』って言ってたわよ。今度その島に連れてってあげるから、あなたのこと紹介してもいいかしら?」

    「いえ結構っス! てかやめてください!」

     黒崎くんは身の危険を感じて、逃げ腰で丁重にお断りした。

    「あらそう?」

     鷹野はどうでもよさそうに答え返して、彼女お得意のクイーンの駒を動かした。
     夜はさらにふけていった。














     いつもと変わらぬ日常、いつもと変わらぬ場所――そのようなありふれた毎日の中にこそ、戦いはふとその素顔を覗かせる。暗く、重く、深い眠りを覚ますかのように。明日夜明けはおとずれるか? そんなことを考えながら、次の朝を迎える者が、果たしてどこにいるだろうか。
     日はまた昇る。それが生きている私達に与えられる、唯一無二の理だから。日はまた昇る、ほら、また東の空が明けはじめた。
     いつの日か誰かがそう強く待ち望んでいた通り(?)、地球外生命体――しかもたいそうケッコーな侵略者達――は、本当に私達の住まうこの地球へとやって来たのである。






























     そして……































     ひぐらしのく頃に・遊び倒し編


     第一次スーパー雛見沢WAR





















           ――開幕――


     『地球君はるばるのぞむ号』は、火星の公転軌道から二度ほど進路をはずれた後、ゆっくり、ゆっくりとスピードを落として、ようやく今の速度となった。この宇宙船の内部は暗く、とても暗く、何者の姿もないようであったが、それは全くの見当違いというもので、やはり息をひそめた者達の気配があった。それが証拠に、突然、ロウソクのような明かりがぼうっと灯ったのである。

    「諸君」

     薄暗がりに重たい声が響いた。

    「今、諸君らが目にしているあの美しい星こそが、我々の目的地である地球だ」

     声に促されて、『諸君』と呼ばれた者達は皆いっせいにそちらの方へと目をやった。
     でかでかと広げられたモニターの先に、地球――宇宙でもとりわけ美しいことで知られている、あの水の惑星の映像が映し出されていた。
     地球は青かった。
     彼の星の歴史上でそう口にされたこの言葉は、あまりにも有名である。

    「なるほど、見事なものですな」

     最初の声の主に、諸君らの中の一人が答えた。

    「ふむ、確かに」

     その後をまた別の諸君らの中の一人が追った。その他の諸君らは皆黙っていた。彼らは最初の声の主に、「早く話の続きをするように」と暗に促しているかのようだった。

    「……と、挨拶はここまでにしておくとして、さっそく協議をはじめたいと思う。時間が惜しいからな」

     最初の声の主がまた口を開いた。
     彼は皆から『No.00(ナンバーゼロ)』と呼ばれていた。

    No.00「その前に、各ナンバーズが、こうやって一同に集まるのは本当に久方ぶりのこと……そのため情報系統に混乱が起きないよう、まずは互いのコードネームをもう一度確認し合う意味で、諸君らに名札を、ナンバープレートを配っておこうと思うのだが、いかがであろうか?」

    「そうしてくれ、ナンバーゼロ」

     諸君らの中から賛同の声があがった。No.00は黙って頷くと、声を高くして言った。

    No.00「では……ケツバン、ケツバンはいるか?」

    ケツバン「はっ、いつでもここにおります、ナンバーゼロ」

    No.00「ありがとう。もう何人かは知っていることだと思うが、ナンバーズの諸君らには改めて紹介しておこう。この者は『ケツバン』と言って、我らの宇宙船の管理をしている者だ。また、情報収集の任も務めている。ではケツバン、皆にナンバープレートを」

     ケツバンはNo.00に言われたとおり、皆にナンバープレートを配った。皆はその名札を受け取ると、さっそくそれを自分達の左胸あたりに取り付けはじめた。その作業が終わるや否や、さっそく口を開いた者があった。

    No.01「ふむ、時は満ちたようだな。ではナンバーゼロ殿、今回のナンバーズ全召集の理由をそろそろ教えていただこうか。我ら12ナンバーズが全てそろうなど、本来はあり得ないこと」

    No.00「うむ、確かに。貴公の言われたことは全くもって正しい見解だ。しかしそのあり得ないことが起こったのだ。今からそれを説明する」

     No.00は一呼吸置いた。

    No.00「諸君らは与り知らぬことだが、大宇宙歴2065975年の2月、つまり地球の暦にして西暦1999年の6月、私の率いる『ノストラ・ザーマス恐怖の大王艦隊』はとある星に戦争を仕掛けた。その星こそが今諸君らが目にしている、あの地球という星だ」

    No.06「ほう? それは結構なお話ですな。しかしちょっと待ってくだされ、ナンバーゼロ。あなたが戦争を仕掛けたというならば、何故あの星はいまだに美しく、青い輝きをはなっておられるのですかな?」

    No.00「話は最後まで聞け」

     No.00は口を挟んだ者をたしなめた。
     No.06は肩をすくめた。

    No.00「あの日、私の率いていた第一級軍は、圧倒的に有利な立場にあった。先制で、しかも奇襲で仕掛けた上に、兵力も兵器も十分に事足りていた。その上、地球の文明レベルは、我々の目から見れば、まだ原始時代のそれにさえもいたってないと思われるほどだったのである。しかし、しかしだ……戦争が始まってから三日も経つと、地球側の陣営が激しい抵抗を見せ始めたのだ。一ヶ月もしないうちに私の第一級軍は、地上戦においてことごとく打ち破られてしまった。そしてあろうことか、最後には壊滅させられてしまった」

    No.03「何とっ!? ナンバーゼロ殿の第一級軍をたったの一ヶ月でっ!?」

    No.09「信じられん話だ……!」

     ナンバーズ達の間でどよめきが起こった。

    No.00「静かにしろ、話を続けるぞ。我々の第一級軍を打ち破った者達は『ちきゅーぼーえいぐん』とかいうふざけた書き込みの旗をかかげていた。私は命からがら地球から逃れた。その時、私がかろうじて運び出せたものは、諸君ら12ナンバーズの眠るコールドスリープ安眠装置だけだったのだ。もう少し遅ければ、私は『ちきゅーぼーえいぐん』に追いつめられて、諸君ら共々この宇宙から消されていたことだろう。その前に私は、この『地球君はるばるのぞむ号』の宇宙船で、最後のワープを試み、戦場を放棄したのだ」

    No.12「なっ……! ということは、今我らの置かれている状況は、もはや軍隊の一握りも残っていないと……?」

    No.00「CPUを搭載した兵器ならばまだ幾らもあるが、まあ概ねそうと言えるだろう。改めて言うまでもなく最悪の状況だ。しかも……今諸君らが目にしているあの地球は、私が戦争を仕掛けた時代から16年も前の地球のようなのだ。つまりあの星の西暦でいうところの、1983年、ニッポンとかいう国の元号に従えば、ショウワ58年の地球にあたるな」

    No.10「馬鹿なっ……!」

    No.11「そんなことが……」

     ナンバーズ達の間でまたどよめきが起こった。

    No.00「静かに。おそらく無茶なワープを行ってしまったせいで、宇宙船のハイグレードタキオンエンジンに負荷がかかり、時空間を移動してしまったのだろう。しかし私はこう考えた。これは逆にチャンスなのだと。16年も前の地球ならば、あの忌々しい『ちきゅーぼーえいぐん』とかいう連中はまだ成熟しきってはいまい」

     No.00はにやりと笑った。彼は言葉を続けた。

    No.00「ではここから本題に入るとしよう。私の目的はあの地球を攻め滅ぼすことだ。あの青い惑星に再び戦争を仕掛ける。しかしこれはただの戦争ではない。私に、いや……我々全員に痛手を負わせた者達への復讐でもある。もはやまともな兵力といえるのは、CPU搭載兵器と、12ナンバーズの諸君らくらいしか残ってはいないが、諸君らさえいてくれれば、私の第一級軍など無くとも何の問題にもならんだろう」

    No.07「いかにも。我ら12ナンバーズの全兵力は、ナンバーゼロ殿の第一級軍の100倍……いや、それさえも凌ぐ。さらにナンバーゼロ殿が加われば、我々に滅ぼせぬ星などこの宇宙にはない」

    No.00「その通りだ。ようやく諸君らにも私の話が飲み込めてきたことだと思う。ではここからは、地球侵略を開始するにあたっての具体的な内容を述べていく。……ケツバン、話せ」

    ケツバン「かしこまりました。それでは12ナンバーズの皆様方、まずは私からの話を聞いていただきたい。地球侵略を開始する際、どうしても気を付けておかなければならない要注意事項がございます。それはナンバーゼロの第一級軍を滅ぼした、あの『ちきゅーぼーえいぐん』なる組織と関係することです。今から私があげるのは、私とナンバーゼロが密かに作成した『ちきゅーぼーえいぐん』のブラックリストの中でも、特に気を付けておかなければならない警戒レベルSSSの超危険人物二人です」

     いったいどんなやつらだろう。
     ナンバーズ達は皆、少なからずそう思った。ナンバーゼロの第一級軍をたったの一ヶ月で打ち破ったやつらとは……ナンバーズ達が固唾を飲んで見守る中、ケツバンが指をぱちんと鳴らした。すると何やら白い垂れ幕のようなものが下りてきて、そこにパッと映像が灯った。



     にぱー☆とした笑顔の女の子が、そこにでかでかと映し出されていた。
     何のことはない、古手神社の我らがアイドル、古手梨花ちゃまその人である。



    ケツバン「まずは一人目……『フレデリカ』」

     ケツバンが厳かな調子で言った。

    「「「ぷっ」」」

     しかしその厳粛な空気とは裏腹に、あちこちから呻きにも似た笑い声が起こった。

    No.00「何がおかしい」

     No.00が無感情にそう言うと、12ナンバーズ達はさすがに失笑だったと気を引き締め直したようだった。しかし彼らは皆一同に、自分達の胸中を口にした。

    No.04「いやいや、これはこれは」

    No.05「ふはっ、どのような輩かと思えば」

    No.09「ただの道化だったか」

    No.11「馬鹿馬鹿しいことだ」

    No.08「この小娘が超危険人物だと?」

    No.02「なるほど、冗談だったのか。これは気付かなくて失礼……」

    No.06「はっ、世間をナメきった顔をしとりますな」

    No.01「ナンバーゼロ殿、これはいったいどういうことなのかな?」

     No.00はしばし沈黙してからこう答えた。

    No.00「……ふむ、諸君らの言いたいことももっともだ。しかし侮ってはいけない。この『フレデリカ』こそが全ての災厄の元凶、大元の根元の本元なのだ。こいつこそが『ちきゅーぼーえいぐん』とかいうふざけた組織を半ば遊び気分で結成し、仲間達とともに私の全軍を打ち破った張本人だ。ちなみにこのフレデリカの写真は今現在のもの……つまり西暦1983年のフレデリカのものだ。今はニッポンのヒナミザワとか呼ばれる小村に在住しているそうだ」

    No.03「ほう……それにしても信じられんな、本当にこんな小娘が?」

    No.10「いやまったくだ」

    No.07「これは質の悪い夢か何かなのか?」

    ケツバン「ナンバーズの皆様方、たった今ナンバーゼロが言われたように、フレデリカを決して甘く見てはいけません。このような容姿をしてはおりますが、フレデリカはその身に恐るべき力を隠し持っています。まだ情報が不足しているのですが、その戦闘能力は少なくともナンバーゼロを一度退かせている程です。また、彼女は普段から『ハ・ニュー』とかいう召使いを従えており、地元ではぶいぶいとゆわせているとか」

    No.07「『ハ・ニュー』だと? これはまたおかしな名前だな」

    ケツバン「『ハ・ニュー』は戦闘能力そのものは大したことはありませんが、やっかいな神通力を使うとのことです。こちらもフレデリカ同様、『ちきゅーぼーえいぐん』のブラックリストにあがっている危険人物の候補の一人なのですが、まあ今はそのことは置いといて、次へまいりましょう」

     ケツバンは一呼吸置いた。それから彼はふうと息をはくと、また口を開いた。

    ケツバン「次、二人目……『タカノ・ミ・ヨー』」

     パッ。
     そこに映し出されたのは何のことはない、確かに精神的にも社会的にも超危険で超暇で超迷惑で超パーなことで有名な、あの鷹野だった。写真に映し出された鷹野は、先程の『フレデリカ』同様笑ってはいたが、その不可解に歪んだ笑みは、12ナンバーズ達の背筋に少なからず冷たいものを抱かせた。

    No.00「どうかしたかな、ナンバーズの諸君?」

     先程のフレデリカの時とはうってかわって、ナンバーズ達が急に黙り込んでしまったので、No.00は何事かと思い、尋ねた。

    No.03「いや、その、何というか……」

    No.11「こう、うまく言葉にできないのだが……」

    No.08「こいつには、何か、どす黒い憑き物があるような……」

    No.06「うむ……この写真、笑ってはいるが、何を考えているのか、実に油断がならんぞ……」

    No.12「顔に、死に神が出ているような気がするぞ……」

    No.00「ふむ、なかなか鋭いな、まあその通りだ。タカノは諸君らの感じたまさにその通りの地球人といえるだろう。こいつも現在はヒナミザワと呼ばれる小村に在住しているそうだ。こいつ自体の戦闘能力は大したことはないのだが、突拍子もない奇策で攻めてくるものだから実にうっとおしい。しかもこいつの生み出す戦闘メカどもときたらもう……その破壊力と嫌らしさは筆舌に尽くしがたく、特に最終兵器である『XYZ』の力は世にも恐ろしい。この最終兵器の戦闘能力は、もしやすると、諸君ら12ナンバーズの戦闘能力をも遙かに凌ぐやもしれん」

     ナンバーズ達は息を飲んだ。
     彼らはもう一度『タカノ・ミ・ヨー』の歪んだ笑顔に目をやった。
     できればこいつにだけは関わりたくねぇなぁ……ナンバーズのほとんどの者が汗をかきながらそう思った。

    ケツバン「『ちきゅーぼーえいぐん』のブラックリストには、この他にもまだまだ、超危険な者達がたくさんあげられております。『鉈の女王』や『完璧生物(パーフェクト・クリーチャー)』など……いずれも戦略兵器クラスの戦闘能力をほこる化け物ぞろいです。が、取りあえずは『フレデリカ』と『タカノ』、この二人が最上位で危険です。この二人の顔と名前だけは絶対にすぐに一致するよう、ナンバーズの皆様方はよっく頭に留めておいていただきたい」

    No.00「ケツバンの言ったとおり、ちきゅーぼーえいぐんの中で最も恐ろしいのは『フレデリカ』と『タカノ』だ。その他の連中も恐るべき力を持ってはいるが、フレデリカとタカノ以外はまだ何とか対策をうちたてることができる。しかしフレデリカとタカノの横暴ぶりだけはもはやどうにもならん。フレデリカの底知れぬ力を目覚めさせてはならないし、タカノの最終兵器『XYZ』だけは絶対に起動させてはならない。我々が勝利するポイントは、その二点にかかっているとも言えるほどなのだ」

    ケツバン「ナンバーズの皆様、たった今ナンバーゼロが言われたような状況が、今の我々に置かれている現状です。フレデリカとタカノ、まずはこの二人を始末する必要があるでしょう」

    No.00「これは私からの意見だが、地球への攻撃は、同時刻の同じタイミングにナンバーズと私を含めた全軍でいっせいに行うのがベストだろう。だがその前に、やはりフレデリカとタカノだけは何としてでも先に始末しておきたい。最小の兵力、最小の被害で、この問題がどうにか片付かないものかと、今、思案しているとこなのだがな……」





    「ふっ……ふっふっふっふっ」

    「くっくっくっ」





     その時、笑い声をあげた者達があった。
     No.00は眉をぴくっと動かし、12ナンバーズ一同を見回した。

    No.00「誰だ? 今笑ったのは?」

    No.05「いや、これは失礼した。ナンバーゼロ殿があまりにも些細なことで悩んでおられるようなのでな」

    No.04「くくっ、このようなこと、実に簡単なことではございませぬか、ナンバーゼロ」

    No.00「ほう? ナンバーファイブにナンバーフォー、何か策でもあるのか?」

     No.00は二人に尋ねた。他のナンバーズ達は黙っていた。

    No.05「策も何も、その二人を亡き者にすることなど赤子の手を捻るよりも容易なこと。フレデリカの始末は拙者にまかせていただきたい。一足先に地球に降り、フレデリカを始末してごらんにいれます」

    No.00「ほう」

    No.04「タカノは奇策を好むのですな? それでは私の出番です。このナンバーフォー、必ずやタカノを仕留めてごらんにいれましょう」

    No.00「ふむ、頼もしいことだな。しかしフレデリカとタカノは今しがた言ったように、ちきゅーぼーえいぐんの中でも最も危険な存在だ。貴公ら二人に、果たして打ち倒すことができるかな?」

    No.05「あのような小娘に遅れをとるようなナンバーズだとでも? いかにナンバーゼロ殿といえども、少し侮辱が過ぎるのでは?」

    No.00「何度も言うが、フレデリカをただの小娘だとは思わないことだ」

    No.05「わかっております。このナンバーファイブ、例え赤子が相手であろうとも、一寸の油断もありません」

    No.00「ふむ」

    No.04「ナンバーゼロ、奇策は私の最も得意とするところ。となると、タカノの始末は私をおいて他に適任はいないのではないですかな?」

    No.00「うむ……ナンバーフォー、確かに貴公の知謀戦にはいつも助けられている……そしてナンバーファイブ、貴公の速攻にはいつも目を見張るほどの戦術的効果がある」

     No.00は目を閉じて、しばし黙した。
     No.04とNo.05の二人は、じっと、No.00の次の言葉を待った。

    No.00「……わかった。好きにやるがいい、ナンバーファイブ、ナンバーフォー。フレデリカとタカノを見事始末してみせろ。もしも貴公らがこの二人を討ち取れたならば、地球滅亡の日は近い。全力を尽くせ」

    No.04&No.05「ははっ!」

     No.04とNo.05は顔を見合わせて、にやりと笑った。

    No.00「ふっ、それでは諸君、復讐を兼ねた新たな侵略戦争を開始しようではないか。今しばらく作戦を練ってからな。ケツバン、船の航行速度をさらに落とせ」

    ケツバン「かしこまりました、ナンバーゼロ」

    No.00「いよいよだ、いよいよあの日の屈辱をはらすことができる。待っていろ地球人どもよ、お前達の運命はもはや我らの掌中にあるのだ……!」



     ふはははははははははははははははははははははははははははははは……!



     船内には支配欲に歪んだ数多の笑い声が起こった。『地球君はるばるのぞむ号』の航行スピードはしだいに息を止めるかのように動きを止めていった。それは赤く赤く、信じられないほど大きく、不吉に輝いていた。きっと地球から見たら、この赤い輝きは、誰の目にも少なからず、嫌なものを抱かせたに違いない。




















     地球側(雛見沢側)と異星人側、互いの存亡をかけた戦いが、今、ここに始まろうとしている……。



























     一週間の月日が流れて……


























     そして夜が明けた!




















     早朝……今日も古手梨花は朝早くに起床した。が、この日は普段とは少し違っていた。珍しいことに、今日の彼女は可愛らしい巫女さん衣装なんぞ身にまとい、週に一度おこなっている神社の境内の掃除を淡々とこなしていた。
     この掃除は普通、休日の朝にやるものなのだが、今日は雛見沢分校が学級閉鎖で突然のお休みになってしまったため、余分な空き時間ができてしまったのである。最近、質の悪い風邪がはやっているとのことらしい。雛見沢分校が早朝から学級閉鎖することになってしまったのも、この質の悪い風邪のためである。
     学校がお休みになったことが嬉しくて、梨花はたいそうご機嫌だった。我らが雛見沢のアイドル古手梨花ちゃまは、今、鼻歌を歌いながら、神社のあちこちをほうきで掃き回っていた。そのように最高に溌剌とした気分だったので、彼女は最初、階段を上ってこちらへやって来る人影には全く気付かなかった。梨花の歌はすでに二番にまで進展していた。要約するとこんな感じの民謡的ラブソングである。

    「ふんふんふんふーん♪ 今日の気分は最高にハイってやつなのよ〜! 今だったらどんなアホらしい惨劇でもぉー、愛するラバーのためにぃー、平気で起こせちゃうちゃうわ〜! 目指すは人気投票一位なのよー! 圭一独占なのよー! 世界征服なのよー! ふぁいとー! おー! みっみみのみー!」

     ここまで恥ずかしげもなく歌ってから、ようやく彼女はおやと気付く。向こうから見知らぬだ〜れかさんがやって来るではありませんか。こんな早朝から、神社の参拝客だろうか。しかもあの妙な人影はこの辺では見たこともないような……見たこともないような……見たこともない……見たこと、も……? あ、あらら……??

     それは一言で言い表すならば……うん……きっと……あれは多分そうだろうと思う。
     忍者だった。
     テレビでよく見る、マンガでよく見る、アニメとかでよく見る、時代劇とかでよく見る、あの忍者だった。顔面を隠すように頭から黒い頭巾をかぶり、腰には刀のようなものを差し、今にも懐から手裏剣なんかが飛び出してきそうだ。そんな忍者が今、こちらへ向かってどんどん近付いてくる。
     梨花は何か見てはならないものを見た気がして、すぐに先程までの、あの「最高にハイってやつなのよ〜!」だった気分が盛り下がってしまった。が、彼女はそこはぐっと我慢することにして、あんな格好をしてはいても、この古手神社をわざわざ訪れてくれた殊勝な人なのだから、と、その未知なる忍者君のために、最高の笑顔を振りまいて、お出迎えすることに決めた。

     うーん……あの忍者のカッコウはきっとあの人の趣味なんだわ。

     梨花はそう思うことにした。
     人の趣味にケチをつけるのは良くないことだ。うんうん、そうそう。我慢、我慢。
     早朝の古手神社には場違いな来客だとも思えたが、梨花はわざと知らないふうを装って、その忍者君の足音がさらに近付いてくるのを、待った。

     ざっざっざっ。
     徐々に足音が近付いてくる。
     ざっざっざっ。



     一歩、二歩、三歩……えいっ、今なのです☆



    「みー、お早うございますなのですよー☆」

     にっぱーーーーーーーーーっ☆

     今しがた、その気配に気付いたかのごとく、完璧な巫女さんスマイルで忍者君を出迎える古手梨花。その場で深く沈黙して、足を止めてしまう忍者君。

     ふっ、決まった。

     梨花は心の内でにやりとほくそ笑んだ。
     この第一印象掴みスマイルに、煩悩がくらくらっとこないものはそうはいない。梨花の打算的な頭脳計算機は今日も絶好調、チャカチャカと怪しい音を立てて、フル稼働していた。初対面の人には取りあえず(猫をかぶっておいて)、親しげに振る舞っておくことが、梨花の人付き合いに対する流儀だった。なぜって、そうしておけば、後でたんまりとおいしいおつりが返ってきたりするからである。

    「貴様がフレデリカか」

     しかし……しかしっ! その梨花ちゃまの第一印象掴みスマイルに対して返ってきた言葉はあまりにもっ……! 梨花の予想の範疇を上回るどころか、天地がひっくり返るほどにぶっ飛んでいた。

    「み?」

     我らがアイドル梨花ちゃまは、一瞬、自分が何を言われたのか、理解できなかった。

    「貴様がフレデリカなんだな?」

     得体の知れない忍者君がもう一度言った。今度は梨花は、相手の発音を、先程よりかは幾分か正確に聞き取ることができた。が、彼女はそれでもやっぱり「み?」と鳴いてしまった。
     さて、読者の皆様にはもう改めて説明するまでもないだろうが、この忍者君こそ12ナンバーズの精鋭の一人、速攻を得意とするあのNo.05だったのである。No.00に重大任務を託された彼は、すでに臨戦態勢、やる気満々、めっちゃめちゃ張り切っていたのだが、彼はどうも自分が目の前の小娘にナメられているような気がしてならなかった。
     一方、我らが梨花ちゃまの方はというと、彼女は戦いがもうすでにはじまっているなんてことには、もちろん気付いてなどいなかった。が、彼女は目の前の刺客をそれほど大した相手だとも思わず、ただ不思議そうに、値踏みするかのように、じっと見つめていた。


     うーん、今のは私の聞き違いだったのかしら?


     梨花は目の前の相手を、自分を始末しに来た敵だなどとは当然思ってはいなかったが、彼女の頭の中では警戒警報レベルが1→2へと移行していた。梨花の頭の中の警戒警報レベル2は、結論から言ってしまうと、半信半疑という状態である。事実、今の梨花は目の前の忍者君に対して、半信半疑だった。


     貴様、貴様……貴様……確かに今こいつ、私の最高のスマイル挨拶に面と向かって、『貴様』って言ってくれたわよね……?


     梨花はどこか釈然としない、息の詰まったような気持ちを覚えながらも、クールになれ、クールになれ、と膨れ上がりそうになる自身の感情を抑えつけた。そうして出てきた結論は、彼女にしてはとても良心的なものだった。彼女は相手の言葉をむりやり好意的な意味にねじ曲げて、忍者君の無礼な振る舞いをこう解釈した。

     『貴様』っていう言葉は、確か昔は、もっと気品のある……敬語だったんじゃないかしら? ということは、この人は失礼な意味で私に『貴様』って言ったんじゃないわ。そうよ、そうそう、『この私』に向かって、しかも初対面の相手に対して、そんな失礼な意味でこの言葉を使うわけが……うん、やっぱりそうとしか考えられないわ。この人に怒るなんてもう全然勘違い、筋違いなのよ。やっぱり人をすぐに疑っちゃいけないんだわ。あの恐ろしい雛見沢症候群にかかっちゃうもんね。忍者みたいなカッコウしてるけど、この人はやっぱり神社の参拝客の方なのかしら?

    「み〜、ボクは古手神社の跡取りの古手梨花なのですよ〜。惜しいですけど、フレデリカとはちょ〜っと違うのです☆」

    No.05「ふはっ、こんな頭の悪そうなチビのガキが、我らの最も危険視している敵だとはな」

     こんな頭の悪そうなチビのガキが。
     その言葉は梨花の疑心暗鬼の種火に、ドバッと油を注ぐものだった。

     何だこの失礼ないかれた野郎は?

     梨花ちゃまの内なる声が豹変した。梨花はまだいつもの梨花ちゃま笑顔を顔面に張り付けていたが、心の中ではそろそろ、ムカムカとするものが煮えたぎりはじめていた。
     古手梨花の警戒警報レベルが2→3へと移行した。レベル3は「こいつちょっとしばいたろか?」という、被害を被る相手にしてみればかなり危険なレベルである。

    「みぃ、今日は何かご用なのですか?」

    No.05「ふっふっふっ、今日は何かご用なのですか〜ときたか。まるで幼児のままごと遊びだな」

     梨花ちゃまの警戒警報レベルが3→4へと移行した。
     レベル4は「こいつ半*す」である。

    「というか、あなたはいったいどちら様なんでしょうか? にゃーにゃー」

     梨花の口調はまだ猫のそれだったが、声はもはや笑ってはいなかった。頭の回転のちょいとばかし鈍い忍者君は、そんなごく簡単なことにも気付けず、再びフレデリカの神経を逆撫でするような言葉を返した。

    No.05「ふん、これからあの世へ散っていく者に対して、名乗る名があるとでも?」

    「はぁ……?」

     ここでようやく梨花は素の感情を表に出した。そこには相手への憤りと、相手の言葉が理解できないといった二つの気持ちが程良く混合していた。目の前のいかれた野郎はいったい何を言っているのだ? ここへきて梨花ちゃまの中の警戒警報レベルが、ついに最大のレベル5にまで到達したのである。



       警戒警報レベル5→→→「絶対ぶっ*す」(鷹野三四ふう)



    No.05「ふん、まあいい、名乗ってやろう。敵の名を知らずしてこの世を去るのも口惜しいことであろうからな。拙者の名はナンバーファイブ。この全宇宙の支配者たるにふさわしい、12ナンバーズの将の一よ」

     はぁ……?
     梨花は再び首を傾げて、嫌そうな顔を露骨に相手に示した。

    「頭の方はだいじょーぶですか?」

    No.05「ふっふっふっ、理解できないのも無理はない。貴様ら地球人達の文明レベルは、我々の目から見れば、まだまだ原始時代のそれにさえもいたってないようだからな。自分達以外に異星人が存在するという簡単な事実にさえも気付けんのだな、哀れな……」

     ムカツク忍者君はさも小馬鹿にしたように、声を低くして言った。
     こいつ……梨花は再び苛立ちを笑顔で隠しながら思った。こいつ、この忍者のカッコウ、これは趣味なんて可愛らしいもんじゃないわ。こいつ、ただの変態だ……梨花ちゃまはそう確信した。雛見沢にも何人かの困った変態さん達がいる。それらを日頃から目にしている梨花にしてみれば、目の前のこのムカツク忍者は、変態の定義の全てを物語っているような気がした。

    「それでなんばーふぁいぶさん、いったいボクをどうしようというのですか?」

    No.05「ふはははははははは、何度も言わせるなフレデリカ! 今日はお前の命を奪いに来たのだ!」

    「何でボクの命を奪うんですか?」

    No.05「我らの長、ナンバーゼロ殿がそう望んでおられるからだ」

    「みぃ、ナンバーゼロさんですか」

     梨花はまともに話を聞いていると頭がおかしくなってきそうだった。あまりにもアホらしすぎて、小馬鹿にして遊んでやる気も起こらない。彼女は、目の前のこの変態に対して、さっさと雛見沢流の結論を下してやることにした。早朝の貴重な時間を奪われて、すでに彼女の怒りは頂点にまで達していたのである。梨花は爆発しそうになる内なる自分を、今しばらく抑えつけながらも、ほうきの握りの部分にぐっと力を込めた。

    No.05「ふはっ! ナンバーゼロ殿の輝かしい未来の血肉となれることを光栄に思うのだな! フレデリカ!」

    「みぃ、困っちゃったのです……本当にボクの命を奪うつもりなのですか?」

     うるっと目元をゆるませて、梨花は少しだけ嘘泣きをやってみた。これは彼女が敵の反応を少しだけ見たいがために、ただ好奇心からやったことである。敵が油断しようがしまいが、それは別にどうでもよかった。

    No.05「やれやれ、少しはできるやつかと思ったが、見た目通りそのまんまだとは、少々がっかりだな……だがいいだろう! そのまま葬ってくれるわっ!!!」

    「でもそちらさんの方が、背後ががら空きで隙だらけなのですよ?」



    No.05「なにっ?!!」



     ここまできて、No.05はようやく相手の怒気のもの凄さに気付いた。

     ――なっ……しまったっ……!? この12ナンバーズのNo.05ともあろうものが、いつの間にか敵に後ろをとられたのか……?!!

     No.05は焦った。コンマ数秒さえもがかすんで見える、スローモーションの世界だった。彼はちっと舌打ちをしながら、信じられないほど柔軟な体勢で後方宙返りを試みた。フレデリカがどのような攻撃を仕掛けてくるのか、彼にはまだ予測さえつかなかったが、異星人の忍者君は死に物狂いで、敵の不意打ちを、絶対に防いでやろうと思った。

     ――ふっ……ふふっ、あ、甘いわ、フレデリカよ。突然のことで少々焦ったが、そのような、不意打ちなどというものは、貴様が正面から攻めるのが苦手であると、自分で証明しているようなもの……!

     ビデオのコマ送りのように、世界の時間がゆっくりと動く。
     そうして忍者君はフレデリカの次の攻撃に備えるべく、後方へと振り返っていた。
     が、しかし、頑張る忍者君は、そこで目をぱちくりとさせた。
     そこには何もなかった。
     あのフレデリカの姿もどこにも見当たらなかった。
     あれ?
     忍者君は首を傾げた(それでもまだ一秒の時さえも経過していなかった)。
     あれ?
     何だ。何もないじゃないか。
     No.05はあれ? と思った。

























     あれ?

































     パッカーーーン!!!




















     賢明な読者の皆様におかれましては、もはやこの音だけで十分であろう。No.05が背中を見せた次の瞬間、梨花ちゃまのほうきによる渾身の一撃が、哀れな忍者君の後頭部に直撃していたことはもちろん言うまでもない。その打撃のあまりの速度と凄まじさに、12ナンバーズの一人、No.05は、可哀想に、一撃のもとに頭を割られていた。忍者君が梨花に背中を見せてから、わずかに、0コンマ01秒の世界での出来事である。
     梨花の幼稚な嘘にまんまと引っ掛かった忍者君も忍者君だが、それでもこのケンカの質の悪さは、これまで私が遊び倒し編で語ってきたどのケンカよりも、飛び抜けて最悪だと言わざるをえない。騙されたら騙された方が悪い。油断した方があの世行き。これが雛見沢流(古手梨花派)の手っ取り早い結論の下し方なのである。そしてこの容赦のないルールの上で、一度でも優位にのし上がった者は、あとは余裕しゃくしゃく、ゆっくりとお茶でもすすっていればいいのだ。
     が、梨花はそうはせず、彼女はまだNo.05(意識不明)の前でムカムカとしていた。朝の貴重な時間を潰されてしまったことで、彼女の苛立ちはおさまるどころか、むしろ逆に、まだまだどんどん膨れ上がっていた。

    「……ったく、ちょっと人が下手に出てたら、こんな変態がのさばってくるのよね。しかも初対面のレディに向かって、いきなり何を言い出すかと思えば、私の命を奪いに来たですってぇ……?」

     うっとおしそうに目を細めて、すうっと息を吸い込む梨花。
     ほうきを握る彼女の手に再び渾身の力が込められた。

















    「この朝っぱらから

    ハッ○リくんみたいなカッコして

    ヒマなこと言ってんじゃないわよっ!!!」



     パッカーーーン!!!




     古手梨花の痛恨の一撃。
     が、今再びNo.05の後頭部に振り下ろされた。
     もちろん、哀れな忍者君の意識が、もうすでにあっちの世界に飛んでしまっていることを承知した上での、えげつない追撃である。

    「『この全宇宙の支配者たるにふさわしい、12ナンバーズ』ですってぇ……?」

     また息を吸って、ほうきを持つ手に力を込める梨花。


















    「寝言は寝て言えっ!!!」



     パッカーーーン!!!




     ……ちなみに今梨花が手にしているほうきは、握りの部分が『スーパーチタニウム』という超合金で構成されており、この類い希なスーパー金属は、雛見沢の裏の重鎮の一人、鷹野三四が生み出したものであった。で、この恐るべきスーパー金属だが、その硬さといったらもう、驚嘆の極みとしか言いようがなく……かの有名な伝説の金属、オ○ハルコーンやアダマン○イトでさえも、ただの屑鉄としか思えなくなるほどである。だからこんな危なっかしい金属で作られたほうき、いや凶器で、もしも頭の一発でもしばかれようものなら(しかも本気で)、それはもう痛いなんてものではなく、ただの悪魔の所業としか思えない。
     この恐るべき超合金で作られたスーパーチタニウム製のほうきは、鷹野三四が「そろそろ梨花ちゃんにも新しい武器が必要な時期よねっ★」と話を振り、梨花が「みぃ〜、もちろんなのですよ。さっそく開発してほしいのです〜★」と子猫のようにおねだりしたことがきっかけで世に生み出されてしまった。鷹野と梨花の頭の中身は、テレビゲームのRPGで遊ぶお子様の感覚とさほど変わりなかった。冗談みたいな話に聞こえるが、梨花が武器開発を鷹野に依頼すると、あら不思議、鷹野は本当に梨花ちゃま専用の伝説の武具を一丁作り上げてしまうのだ。No.00が真っ先にこの二人を危険視するのも、もっともな話であると言えるだろう。





    「そんなに

    忍者ごっこがやりたいんだったら

    どっか余所でやれっ!!!」



     パッカーーーン!!!




     さて、忍者君の置かれた状況だが、もはや惨憺たるものであった。
     反動をつけて、全力で振り下ろされた梨花の打撃が、今再びNo.05(意識不明の重体)の頭をとらえていた。



    「今日はせっかくのお休みだってのに

    あんたのせいで

    全部台無しじゃないのっ!!!」



     パッカーーーン!!!




     ……まだ朝も早いこの時間帯から、さすがにそれは言い過ぎだろうと、つっこみたいところだが、やめておこう。一度こうなってしまったからには、もはやだ〜れも我らが梨花ちゃまを止めることなど出来はしないのだ。

     と、その時だった。

     梨花はふと攻撃の手を休めた。遠目に羽入の姿が見えたのである。羽入は何やらゴミ袋を重たそうに担いで、うんしょ、よいしょ、と、しんどそうに運んでいた。そういえば今日の朝のゴミ捨て当番は、羽入であったことを梨花は思い出した。早朝のゴミ捨ては、日頃から、梨花→沙都子→羽入→梨花→沙都子→羽入……と、交替制で行われている。
     梨花が遠くから様子を眺めていると、羽入は何やらうーん、うーんと唸っているようだった。それから彼女は困ったような表情を浮かべて、その口元が『あぅあぅ』と言っていた。羽入はゴミ袋を、いったんその場に下ろして、一休みしはじめた。
     梨花ははあとため息を吐いた。何て非力な子なんだろう……と思ったら、羽入はまた立ち上がって、今度は気合いを入れるように、伸びをした。それから彼女は腕をぐるんと回して、「あうっ!」と自分自身に活を入れ直したようだった。

     へえ、頑張るじゃないの。

     非力ではあるけれども、そんな健気な羽入の姿を目にして、梨花は嬉しく思った。最初はシュークリームをねだるだけの厄介者だったけど、羽入もこの頃だんだん生活力がついてきたわね。

     と、何を思ったのか、羽入は突然ゴミ袋を地面に引きずるようにして運びはじめた。
     それを目にするやいなや、家事には厳しい梨花の目がかっと見開かれた。



    「ちょっと羽入!!!」



     スパーーーンッ!!!




     羽入に叫んだつもりだったが、梨花の怒りの矛先が向かったのは、忍者君の頭の上だった。



    「何やってんのよ!!!

    そんなことしたら

    ゴミ袋が破れちゃうでしょっ!!!」



     ドガガガガガガッ!!!




     またまたNo.05の頭にデンジャラスな凶器を打ち込みはじめた梨花。
     しかも今度は無意識下のことである。
     忍者君にはもはや生存権というものはなかった。
     そんな忍者君に成り代わって、自分の不満を梨花に訴えたのは、羽入だった。



    「あぅー、重いのですよー」



     今にも泣きそうな情けない声で遠くから返してくる羽入。



    「仕方ないでしょっ!!!

    それが仕事なんだから!!!」



     バーーーーーン!!!




    「あぅあぅ、しんどいのですよおー」



    「だからゴミ袋を引きずるなっ!!!」



     ボーーーーーン!!!




    「梨花は横暴すぎるのです!」



    「今日は生ゴミの日なのっ!!!

    中身が出てきたらどうするのよっ!!!」



     バキィッ!!!




    「そんなのボクの知ったこっちゃないのです!」



    「生ゴミは臭いがうつっちゃうの!!!

    羽入、早く捨ててきて!!!」



     バシバシバシバシバシバシッ!!!




    「あ、あぅぅっ、な、何だか急にギックリ千年腰が……」



    「馬鹿なこと言ってないで

    とっとと捨ててこい!!!」



     グシャッ!!!




     ……大変哀れむべきことだが、このような光景は、雛見沢では普段と何らの変わりもない日常風景だった。なので羽入は、梨花が意識を失っている誰かさんの頭をバンバンほうきでしばいているのを目にしても、特に気をとめるふうでもなく、梨花といつもの日常会話口論を続けていた。だいたい梨花が誰かに一方的に攻撃を加えている図など、今に始まったことではないし、今さら珍しい光景でもなんでもなかった。どうせまたどっかの馬鹿か世間知らずか変態あたりが、この朝っぱらから梨花にケンカを売って、返り討ちにでもされているのだろう……ぐらいの認識しか羽入は持ち合わせてはいないのだ。

     いくたびかの口論の末、羽入はもう完全にふてくされて、どこからかシュークリームを取り出し、それを頬張りはじめた。



    「こらっ!!!

    シュークリーム食べるなっ!!!

    それは放課後か三時のおやつの時だけって

    いつも言ってるでしょっ!!!」



     スパーーーンッ!!!




     梨花の煮えたぎる感情からは、もはやブレーキという概念が抜け落ちていた。が、とはいうものの、何を言っても羽入はあぅあぅあぅ……としか返してこないので、そのうち梨花は口論するのも馬鹿らしくなってきて、はぁとため息をついた。いささか不本意だが、しょうがないから羽入を少しだけ手伝ってやることにした。それにしてもゴミ袋の一つさえも運ぶことができないなんて、本当に何て非力な子なんだろう。あれでも非情なる幾多の戦いを勝ち抜いてきた、部活メンバーの精鋭の一人だというのに。
     と、そこで梨花はようやく気付く。「この全宇宙の支配者たるにふさわしい、12ナンバーズ」の一人、No.05が、今にも天に召されそうなぶざまな格好で、完全にのびきっていた。それを見て、梨花の口からはまたはぁとため息がもれた。

    「ああもう、何だってのよ。こっちはこっちで、粗大ゴミが一つできちゃったじゃないの」

     梨花はうんざりとした様子で首を振ったが、そうしながらも彼女は、No.05の黒装束の首根っこを掴んで、ずるずると引きずりはじめた。

    「ちょっと来なさい。あんたみたいな変態暇人には、日々生活するってことがいかに大変かを徹底的に教えてやるわ。まずはちゃんとした挨拶の仕方、その次は掃除の仕方、その次は上手な買い物の仕方、その次はゴミ出し、その次は炊事の仕方、その次はやっとおいしいお味噌汁の作り方……!」

     No.05に課すべき仕事を一つ一つ読み上げながら、梨花は今や完全にノックダウンしてしまっている忍者君をずるずると引きずっていった。羽入のゴミ出しを手伝った後で、この忍者には徹底的に生活力の基礎を叩き込んでやるつもりだった。梨花はまだムカムカとしたものを抱えながらも、そのことにかすかな使命感のようなものを覚えていた。





    「こら羽入!!!

    シュークリーム食べるなっ!!!」



     パッカーーーン!!!






     こうしてNo.05のフレデリカ抹消作戦は大失敗し、このことはすぐに他のナンバーズ達の耳に知れ渡ることになる。その時、No.00を除いた、他のナンバーズ達は、フレデリカの恐ろしさに震えおののくことであろう。しかし今はまだそれを語る時ではないし、何よりもページが足りない。その詳細な経過報告については、また後ほど物語るとしよう。

     とにかく、互いの存亡をかけた雛見沢大戦争は、もうすでに後戻りのきかない、運命的な序曲を奏で始めていたのである。

     12ナンバーズの一人、No.05。
     特に戦いらしい戦いがあったわけでもなく、梨花ちゃまにバンバン後頭部を叩きのめされて、撃沈(リタイア)

















     さて、ここで少し時間は前後することになるのだが……













     一方、もう一人の超危険分子、鷹野の方はどうなったのであろうか。彼女を狙うのは、No.04の恐るべき魔の手……しかし彼女はそんなことなど露知らず、今、入江診療所別棟のベッドの中で惰眠をむさぼっていた。この診療所別棟は、鷹野三四がその手に余るほどの財力で造らせた彼女の根城である。彼女は今、未知の知的古代生物と遭遇する幸せな夢を見ていた。その夢の中ではもちろん鷹野は主人公であり、神であり、知的古代生物は鷹野の金銭トラブルの被害にあって、わんわんと泣き叫んでいた。どうやら知的古代生物が、鷹野から多額の借金をして、それを返済できなくなったという、生々しい設定のシナリオのようである。

     ぴぴぴぴぴぴぴ。

     と、そんなふうに鷹野が幸せな夢を見て過ごしていると、突然目覚ましが鳴った。
     ぴぴぴ……鷹野は目覚ましのスイッチを切って、再び惰眠の享楽にふけろうとした。
     すると今度はぴこーんぴこーんという変な音がどこからともなく聞こえてきた。鷹野はまたぐずぐずと目覚ましに手をかけようとしたが、次の瞬間、彼女は飛び起きて、大声を出した。

    「あら!? あららららららら!? ねえちょっと待ってよ!」

     彼女は何か面白いことでも思い出したらしく、目を輝かせながら急いでベッドから離れた。それから隣の部屋に足を運んで、ぶつぶつと何かを呟きはじめた。あーでもない、こーでもない、あれじゃない、これじゃない、と部屋の中を漁りまわっているうちに、鷹野はやがてにやりと笑った。お目当てのものが見つかったのである。






     山狗の新隊長、鶯1の黒崎彰吾くんは、今日もまた、いやだなぁ……と思いながら、診療所別棟の鷹野の部屋へと赴かなければならなかった。この頃、鷹野からの直接的な被害はないのだが、鷹野が遊び半分に部活メンバー達にケンカを売るものだから、そのせいで間接的に黒崎くんをはじめとする山狗達が、そのケンカの最大の被害にあう、というようなケースが連日のように起きていた。
     部活メンバー達の攻撃力は、皆どこかしら物理法則を超越しており、それらをやり過ごすには、できることは二つしかない。一つは戦場を放棄して逃げること、もう一つは黙って部活メンバー達にしばかれることである。危なっかしい彼らへの対応はこの二点以外には存在しない。決して反撃しようなどと思ってはいけない。そんなことをすれば火に油というやつだ。

     と、黒崎くんがいつものように廊下を進んでいると、何やら怪しげな格好をして、ゆっくりゆっくりと廊下を忍び足で後退している、鷹野三四の姿が目に映った。頭にバイキ○マンの触覚みたいな、変な機械(?)をつけており、両手にはダウジングに使用するような、二本の棒を握っていた。その鷹野三佐のもの凄く真剣な様と言ったらもう……ただの暇人というか、アホというか……また鷹野が何か変なことやりはじめたぞ、と、黒崎くんは彼女に対して同情の涙が出てきそうだった。

    「三佐、いったい何やってるんですか……?」

    「むっ!?」

     黒崎くんが気後れしながらも、声をかけると、鷹野はくわっとこちらに振り返った――目がぎらぎらと光っていた。黒崎くんはぎゃっと一瞬飛び上がりそうになった。鷹野はこちらを睨み付けながら、ダウジングのような二本の棒を黒崎くんに近付けた。

    「ちょっ!? 三佐!?」

    「静かに!」

     何らかの攻撃武器の実験かと思い、焦った黒崎くんだったが、どうやらそうではないようだった。鷹野はダウジングに使用する棒のようなものを、少しの間、黒崎くんの目の前で止めていた。やがてぴこーんぴこーんと、どこかから変な音が聞こえてきた。その音の発生源は黒崎くんにもすぐにわかった。鷹野の頭の触覚からである。触覚は怪しくチカチカと点滅をはじめたかと思うと、何と機械の音声で、黒崎くんにもわかる言葉を喋った。

    『ぴこーんぴこーん、イジョウレベル! イジョウレベル!』

     鷹野の目がじろっといっそう鋭く黒崎くんを睨み付けた。
     黒崎くんは縮み上がった。

    『コノヤローのシンタイノウリョクハ、スデニ人外ノリョウイキニマデタッシテオリマス! シカシコノヤローハ地球外生命体デハアリマセン! うちゅーじんジャナイヨ! うちゅーじんジャナインダヨ!』

    「ちっ!」

     鷹野は舌打ちした。

    「何が『ちっ!』すか!?」

     黒崎くんは何が何だかよくわからないが、鷹野にひどいケチをつけられたような気がして、思わず叫んでいた。それに何だか小馬鹿にされたようにも感じる。まあ鷹野には毎日のように小馬鹿にされているが、今日はいつもよりも、もっとあからさまな気がした。

    「うーん、やっぱりあの朝の探知機の音は機械の故障だったのかしら」

     鷹野は誰に言うでもなく、ぶつぶつと言った。

    「はあ……? 三佐、いったいどうしたんです?」

    「宇宙人よ」

    「う、宇宙人……?」

     鷹野はもう一度黒崎くんに、ダウジングの棒を近付けた。

    『ぴこーんぴこーん、イジョウレベル! イジョウレベル! コノヤローのシンタイノウリョクハ、スデニ人外ノリョウイキニマデタッシテオリマス! シカシコノヤローハ地球外生命体デハアリマセン! うちゅーじんジャナイヨ! うちゅーじんジャナインダヨ!』

     非常にやかましい。

    「三佐、何がなんだか話がさっぱりです。説明してください」

    「だから宇宙人なのよ。この二本の棒は、近付いた対象を、地球人なのか、宇宙人なのか、識別できる機械なの」

    「……何ですって?」

     黒崎くんは、人はちゃんと理性をもって生きていかなければならないぞ、と自分自身に言い聞かせた。鷹野三四の馬鹿な話は冗談半分、いや全部冗談として聞いておくのがベストだ。

    「それどこで買ったおもちゃなんですか?」

     パカッ!

     黒崎が少し本音を口にすると、彼は鷹野にダウジングの棒で殴られた。今しがたのあれは、いつもの鷹野三佐の悪質なジョークじゃなかったんだな……と黒崎くんは思った。

    「この『うちゅーじんさん★ようこそ識別棒』は私が開発したのよ。黒崎に反応したから、一瞬黒崎が宇宙人かと思ったんだけど、違ったみたいね」

     鷹野三四が実に残念そうに言った。
     黒崎くんは不意に泣きたい衝動にかられた。
     そんなの当たり前だろうが、と、彼は心の中で泣く泣く鷹野に言い返した。

    「今朝ね、私が以前作った『うちゅーじんさん★見つけたんちき』が鳴ったのよ。この探知機は地球外生命体が特定の距離に接近した時に反応するよう作ってあるの。半径3万キロ以内、3百キロ以内、3キロ以内、それからこの診療所の方角に、意図的に近付いてくる地球外生命体にも反応するように作ってある」

    「はあ」

     黒崎くんは気の抜けた興味のこもらない返事を鷹野に返した。

     パカッ!

     彼はまたダウジングの棒で殴られた。

    「でも探知機の音が鳴ったのは朝の一回だけだったし、遠距離のじゃなくて、いきなり3キロ以内のが反応したのもおかしいわねぇ。診療所の近くに、宇宙人が潜んでるんじゃないかって思って調べてたんだけど……ちっ、やっぱり機械の故障かしら。宇宙人ってどんな生態系してるのか、一度捕まえて見てみたかったのよねぇ」

    「は、はははっ……」

     なるほど。それはまた実に有意義な朝を過ごしているものですな。この朝っぱらからそんな格好で診療所の付近をうろうろと……黒崎くんは鷹野の語る激しく妄想的な、あるいは夢のあり過ぎる話についていけず、苦し紛れの曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

     パカッ!

     彼はまた鷹野にダウジングの棒で殴られた。

    「それより黒崎、私に何か用でもあったの? 部屋に来るつもりだったんでしょう?」

    「あ、ああ、そうでした」

     鷹野に言われて、山狗の隊長である黒崎くんは、ようやく自分がこの診療所別棟へと赴いた、本来の目的を思い出した。

    「三佐にお客さんです。何だか気品のありそうな人ですよ」

    「お客さんですって? 誰かしら、今日は覚えがないわね……」

     鷹野はしばらく思案したが、やがて黒崎にこう返した。

    「まあいいわ。黒崎、そのお客さんを部屋に通してちょうだい」

    「わかりました」

     鷹野は、うーん、おかしいわねー、とか、うーん、機械の故障かしら? とか、まだぶつぶつと言いながら、自分の部屋へと引き上げていった。黒崎くんには鷹野がいったい何を考えているのかさっぱりとわからなかった。しかしとにかく今は、鷹野の客人を一刻も早く彼女の前に連れていかなければ、と彼は思った。そうしなければ黒崎くんは後で地獄を見ることになるだろう。彼はさっそく鷹野三佐の命令を実行にうつすことにした。










     それは奇妙な出会いだった。
     鷹野がうーんうーんと宇宙人のことを考えながら、見知らぬ客人を待っていると、やがて彼女の部屋の扉がこんこんとノックされた。

    「どうぞ」

     鷹野はあまり深く意識せず、そう口にした。

    「三佐、先程言ったお客さんです」

     黒崎くんの声が扉のあちらから聞こえた。
     部屋のドアはそれからすぐに開かれた。

    「三佐、こちらの方が――」

    「どうも初めましてタカノさん。私はトラベルナンバーズ株式会社のピエール・フォー・ヤマモトという者です」

     黒崎くんが全て言う前に、客人が低い声でうやうやしく名乗った。
     鷹野は客人の方へ、最初は興味のない視線を送ってよこしたが、その客人の身なりをぱっと見直すなり、彼女はあら、と心を動かされた。
     その客人の格好は、まるで四十台半ばの英国(えげれす)帰りの紳士のようで、上からスーツとズボンでぴしっと決め、手には今しがた鷹野に挨拶した際ぬいだ帽子と、それからステッキ、鞄を持っていた。まるで二、三世紀も前の時代から飛び出してきたような古い身なりである。しかしそれは驚くほど目の前の人物にぴったりと似合っていた。

    「ピエール・フォー・ヤマモトさん? トラベルナンバーズ株式会社ですって? ごめんなさい、聞いたことがありませんわね。今日はどのようなご用件でしょうか?」

     鷹野がそう聞くと、英国(えげれす)帰り紳士ふうの男は「取りあえずまずはこれを」と言いながら、鷹野に手の平サイズの紙を差し出した。鷹野はそれを受け取って、裏、表と交互に目をやった。



       ☆トラベルナンバーズ株式会社☆

       企画部・企画担当主任

       ピエール・フォー・ヤマモト

       TEL:○○−××××−△△△△



     それはこの紳士ふうの男の名刺のようだった。
     鷹野は話がよく飲み込めず、紳士ふうの男が言葉を続けるのを待った。
     男は一瞬、黒崎くんがぞっとするような嫌な笑みを浮かべてから(鷹野はその不気味な笑みには気付かなかった)、説明の続きをほしがっている彼女に再び口を開いた。

    「この世にはたいそう結構な幸運をつかまれる一握りの人間がいるものです。タカノさん、あなたはまさにその一握りの人間の一人であると言えるでしょう」

     ピエール紳士はにっこりと笑って言った。
     しかし鷹野はそう言われても、何のことだかぴんとこなかった。

    「ええっと、おっしゃりたいことの意味がよくわかりませんわね」

    「つまりこういうことですよ、タカノさん」

     紳士ふうの男は、今度はわざとらしい気取った手つきで、鞄から旅行パンフレットのようなものを取り出すと、それをすっと鷹野の前に差し出した。

    「タカノさん、あなたはプラチナポンポコカードというクレジットカードをお持ちですね?」

     紳士ふうの男が言うと、鷹野は目を丸くした。

    「ええ……ええ、持ってますけど、どうしてそのことを?」

     彼女が驚きながら聞き返すと、男はまたにこりと笑った。鷹野も相手に探りを入れるように笑い返したが、黒崎くんだけは笑っていなかった。彼は鷹野達の様子を、特に紳士ふうの男に注意を払いながら、ドア近くから見ていた。
     黒崎くんは思った。この紳士ふうの男からは何か危険な匂いがする。まだ経験は浅いが、これまで山狗隊長の任を務めてきた彼の勘がそう告げていた。黒崎くんは紳士ふうの男からは表情を読まれない角度に立って、やや細めた、警戒の色を浮かべた眼差しで、彼らの会話の成り行きを見守ることにした。上官である鷹野に危険が及ぶようなことがあれば、山狗隊長として、全力でこれを阻止しなければならない。

    「プラチナポンポコカードには、半年に一度、IDナンバーを使用した抽選くじサービスがあるのはご存じですね?」

     紳士ふうの男が言った。鷹野はこれに頷いた。

    「ええ、知っています。それが何か?」

    「つまり」

     と、男はもったいぶった口調でいったん言葉を切ってから、こう続けた。

    「あなたは当選したんですよタカノさん。おめでとう、一等、世界一周の旅です。まだ見たこともないような美しい国々が、きっとあなたを待っていることでしょう」

    「え、えっ、ええっ?」

     鷹野は困惑した笑みのような、そうでないような表情を浮かべた。
     え、ええっと……?
     彼女はたった今自分が言われたことを頭の中で整理しようと試みた。
     しかし彼女がそうする前に、紳士ふうの男がさらに続けた。

    「私どもの会社はプラチナポンポコグループの傘下にある会社なのです。小さな旅行会社ではありますが、プラチナポンポコから業務資金を受け取り、それで事業を運営しております。今日はたいそうな幸運を引き当てた、類い希な人物がいると聞いて、プラチナポンポコの抽選くじ委員会から依頼を受けてやって参りました。あなたが引き当てた幸運は、世界一周の旅――どうです、素晴らしいお話でしょう? これがその旅費にあたる小切手、そしてこれは異国からのささやかな贈り物です」

     紳士ふうの男は言いながら、鞄から小切手と、西洋菓子の詰め物のようなものを取り出して、鷹野の前に差し出した。
     鷹野は目をぱちくりとさせた。彼女は「嘘だ」と、鉈を持つ誰かさんのように心の中で言った。しかしその内なる叫びは、情けないことに、みそ漬けのこんにゃくよりもなお弱かった。まさか、まさか、と疑いつつも、鷹野の目の前には、大きな大きな薔薇色の光景が広がりはじめていた。騙し合いにはめっぽう強い鷹野だが、褒められたり、予期せぬ幸運にぶつかったり、予期せぬ特別なプレゼントを贈られたりすることには、てんで弱い鷹野であった。

    「もちろんこの長期滞在の旅には、誰か親しい人とペアで行くことも可能ですので」

     紳士ふうの男が相手の調子に合わせるように、笑みを浮かべながら言った。
     この言葉が鷹野三四の疑いにとどめをさした。

     ああ、ジロウさん……!(注:富竹)
     私、ついにやったわ……!

     この時の鷹野の恍惚とした表情といったらもう……彼女の大悪友である梨花に言わせると、「ふん、腑抜けすぎてて見ちゃいられねぇのです」という状態だった。雛見沢の裏の重鎮の一人である鷹野。その鷹野は今、何ともまあ締まりのない情けない笑顔を浮かべて、かぁいいモードの時のレナのようになっていた。
     だいたい鷹野にはあり余る財力があるのだから、世界一周の旅など、やろうと思えば、いつだって、何度だって出来ることなのである。以前、黒崎くんを含む山狗達に海外出張をさせた時にも、彼女はその経費として、現ナマで二千万円をぽんと支給したことがあるくらいだ。
     それが何だ。ほら、えっとあれだ。「くじの一等で当たった」とか、そういった話になってくると、鷹野の中ではその旅の経済価値は途端に特別な輝きを帯びはじめるらしい。目の前に何か不穏な動きがあるとも知らず……彼女はおほほほほと照れ隠しなどして、機嫌良さそうに笑っていた。その時、紳士ふうの男の目がぎらりと怪しく光ったことにも気付かず……いつしか場の空気はぼんやりと生ぬるく停滞していた。鷹野は確実に、何らかの正体不明の暗雲に巻き込まれそうになっていた。

     しかし、しかしここでやはり鷹野三四という人物を侮ってはいけないのだ。英国(えげれす)帰りふうの紳士、ピエール・フォー・ヤマモト氏は「この世にはたいそう結構な幸運を掴まれる一握りの人間がいるものです」と言ったものだが、この言葉は実に的を射たものである。鷹野の場合、良い方の幸運が転がり込んでくることにはさっぱりと見込みがなかったが、そのかわり彼女には異常とも思えるほどの悪運の強さが備わっていた。

    「三佐、ちょっと向こうでお話が」

     これまで黙っていた黒崎くんが不意に動きを見せた。彼は鷹野に近付き、紳士ふうの男に表情を読みとられないよう、男に背を向けてから言った。黒崎の表情はいつになく冷たく、口調も物静かで低めだった。

    「ん? どうしたの、黒崎ちゃん?」

     そんな黒崎くんとは対照的に、とてもご機嫌な、スーパー・パーな魔女っ子みたいに、嬉々として言葉を返す鷹野。こんなのは絶対にいつものあの鷹野三佐じゃないぞ、と黒崎くんは思った。

    「取りあえず台所で」

     と、黒崎は鷹野にしか聞こえないくらいの小声で言ってから、「ピエールさんに何か飲み物を出してあげましょう」と続けた。鷹野はその言葉の意味を素直に受け取って、こう答えた。

    「ええ、ええ、そうね。ピエールさん、ちょっと待っててくださるかしら。今、何か飲み物を入れてきますので」

    「いえいえ、お気遣いなく」

     鷹野の好意的な言葉に、手を振りながらも笑って答えるピエール氏。彼がまんざらでもなさそうな同意の様子を示していたので、鷹野はもう一度、今度は相手に有無を言わせぬよう、強く押した。

    「いえいえ、今日はせっかくこうやって出向いてくださったのですから、飲み物の一杯くらい御馳走させていただきますわ。美味しい紅茶とコーヒーがあるんです」

    「……そうですか。それでは大変申し訳ありませんが、一杯だけ、いただくことにします」

     紳士ふうの男は答えた。鷹野はええ、ええと嬉しそうに頷いた。黒崎くんも相手に好意を示すふりをして、ピエール氏に頷いておいた。しかし黒崎くんの内心では一刻も早く、鷹野三佐に彼女自身の危機を知らせてやりたかった。
     あの男は……あの男はたぶん……何故かはわからないが、どうやってかはわからないが、鷹野三佐に危害を加えようとしている……今日の黒崎くんは冷静そのもので、もの凄く頭が冴えていた。











     くっくっくっ、と、内心でさも愉快そうに笑う一人の不届き者がいた。読者の皆様にはもう説明の必要もないだろうが、何を隠そう、彼こそがトラベルナンバーズ株式会社のピエール・フォー・ヤマモト氏に扮して、ただ今鷹野を欺くことに真っ最中の、あのNo.04だった。彼のナンバーズとしての恐るべき力の源は、No.00が称賛する戦闘能力はもちろんのことだが、その真の恐ろしさは彼の策略の巧みさと狡猾さとにあった。彼はこの鷹野抹消作戦を開始するにあたって、現在の地球の文化をことごとく調査し、吸収し尽くしていた。彼の記憶力、脳内吸引のスピードと言ったら、この世のどんな賢人でも追いつかぬほどで、まるで来世のスーパーコンピュータか何かのように、次から次へと貪欲に知識を蓄えていった。
     No.04がこのような回りくどい作戦をとったのは、正攻法で攻めるよりも、敵を欺くことにこそ生きがいを感じる、彼の特異な性分がそうさせたからであった。実を言うと、No.04の恐ろしい戦闘能力をもってすれば、鷹野や黒崎くんなどはまるで敵ではなかった。彼がひとたび自分の力を行使すれば、鷹野抹消などという単調な任務は簡単にすんだことなのである。しかし彼は標的と普通に戦うことよりも、わざわざこのような騙しの攻めを展開することを選択した。No.04は自分の純粋な好奇心から、狡猾だと噂される鷹野が、自分に対していったいどのような行動をとるのか、ひそかに興味があったのだ。
     トラベルナンバーズ株式会社などという得体の知れない団体や、それに付随する鷹野への戯言などは、もちろんこのNo.04のでっちあげた大嘘である。彼は、まず用意周到にも、タカノという人物のことを調べ上げて、彼女がこの星ではたいそうなお金持ちだという事実を突き止めた。お金持ちであるならば、『プラチナポンポコカード』というクレジットカードを持っていることは、この星ではまず疑う余地のない確定事項であるらしい。No.04はそのことを知って、そこら辺のところからあたってみることにした。そして彼は入念に下調べをしてから、鷹野三四という人物に切り込みを入れた。
     その結果はどうであったか? その結果は大成功。
     鷹野はまんまと、あまりにもあっさりと、ころっと騙されてしまったのである。
     No.04は思った。

     くっくっくっ、鷹野というやつは相当狡猾な手練れと聞いていたが、なかなか可愛げのあるやつじゃないか。こうも簡単に引っ掛かってくれるとはなぁ。

     くっくっくっと内心で笑いながら、そしてNo.04はこう思う。

     敵に仕掛ける落とし穴は単純なものでいい。

     旅費の偽小切手とともに、タカノに差し出した、あの西洋菓子ふうの詰め物……あれこそがキーだった。あの菓子の中にはこの宇宙で最高の神秘の毒薬、『イチコロバスター』が(注:宇宙の毒薬であるので、本当は全然発音の違う、聞いたこともないような変な名前なのだが、読者の皆様にも薬の効能が一発でわかるよう、こう訳してある)仕込まれてあった。気を緩めたタカノは今日中にも必ずあの菓子を口にすることだろう。あとはこちらが引き上げるタイミングをゆっくりと計るだけ……タカノの側にいる男(タカノがクロサキと呼んでいたか?)は、こちらの動きを警戒しているようだが、見たところ、あの男は大した戦闘能力は持ち合わせてはいないようだ――No.04は万事が順調に運んでいるのを見て、大いに満足な気分だった。

    「ああ、そうでしたわ」

     今まさに台所に向かおうとしていた鷹野が、何かを思い出したらしく、足を止めた。
     動きに少し変化があったので、No.04は注意深く彼女の様子を観察した。さて、何かトラブルでもあったか? No.04は鷹野に声をかけた。

    ピエール氏(No.04)「どうかされましたか?」

    「いえ、ついうっかり、これを忘れてしまうところでしたわ」

     そう言って鷹野は、この宇宙で最高の神秘の毒薬、『イチコロバスター』が混入されている、菓子の詰め物を手に取った。No.04は一瞬ぎょっとしたが、彼はすぐに気持ちを落ち着けて、心の中で鷹野を嘲笑った。まさかな、タカノの浮かれた表情からも読み取れることだが、こちらの企みがばれていようはずがない。

    「この異国のお菓子はきっと美味しいことですわね。いただいたばかりで申し訳ありませんが、飲み物にはこのお菓子で御馳走させていただきますわね」

     くっくっくっ、とNo.04は内心で再び笑った。このようなケースも彼には想定内だった。敵と一緒に菓子を食べるような可能性があることは、彼は重々承知していた。だからこそ、だからこそNo.04は、自分は『イチコロバスター』の解毒剤をちゃ〜んと飲んでから、この戦場へと赴いてきたのである。もし仮にタカノと一緒に菓子を食べたとしても、あの世へ旅立つのは、嬉しいことにタカノだけ。自分は解毒剤のおかけで、菓子をいくら頬張ってもぴんぴんとしていることだろう。しかも『イチコロバスター』は宇宙で最も強力な神秘の毒薬にして、摂取した痕跡が残らないという、まさに理想の毒薬なのだ。ちょっと疑いをかけられることはあっても、タカノを亡き者にしたという確証はない。そうして静かに静かに、この事件は迷宮入りすることになるのだ。くっくっくっ――No.04はまさに絶好調というやつだった。

     確かに、No.04の計画は、うまいこと、着々と進んでいた。彼は偶然とはいえ、タカノの弱点である、褒めちぎり、予期せぬプレゼント、など、なかなか彼女のツボをついたうまい攻めを展開していた。しかし彼の絶頂が続いたのはせいぜいがこの程度までである。12ナンバーズ達が最初、タカノの写真を目にした際、彼らのほとんどの者が危惧したとおり、鷹野三四には何か悪い憑き物でもあるのだろう。彼女の悪運の強さには、もはや神がついているというか何というか……あの超危険人物、タカノ・ミ・ヨーに関わったことで、悲しいことに、No.04の運命はここから一気に転落するはめになる。

     それは鷹野にとって、奇跡的な瞬間であるとも言えた。タイミングも素晴らしかった。全てのサイの目が6なんて飛び越えて、イカサマでもして10ばかりのウルトラフィーバーでも飛び出したかのようだった。全ての状況が鷹野三四に対して追い風となり、味方していた。もう一度念をおして言うが、ピエール氏(No.04)に何か飲み物を御馳走するというこの局面にまできて、事の起こるタイミングが不気味なほどに完璧だったのである。

     ぴこーん、ぴこーんと、どこからか変な音が十秒ほど鳴ったのだ。

     その瞬間、鷹野はびくっと痙攣して、頭をハンマーで叩き割られたように、台所へ向かう足の動きを止めた(黒崎くんも足を止めて、彼は困惑した顔付きになった)。音はそれきり鳴らなかった。鷹野三四はピエール氏に背中を向けたままだった。ピエール氏は不思議に思い、首を傾げながら鷹野に尋ねた。

    ピエール氏(No.04)「おや、今の音は何ですか、タカノさん?」

     鷹野は一瞬何も答えなかった。No.04は、はて、何かおかしいぞと思ったが、彼女がすぐに返答してきたので、彼は気のせいかと思い直した。

    「いえ、あれは目覚ましの音なんです。変な音が鳴るでしょう? ちょっとアラームの設定がうまいこといってなくて、今朝も一分ほど鳴り続けていましたわ」

    ピエール氏(No.04)「ははは、そうでしたか」

     小さな気がかりが解消されて、にこやかに笑う、ピエール・フォー・ヤマモト氏。しかし彼のそんな余裕に満ちた声とは対照的に、鷹野の頭脳は今、忙しくフル回転を起こしはじめていた。

     あらぁ?

     鷹野の脳内では次々と疑問が広がっていった。彼女の目に、いつものあの嫌らしい狡猾さが戻りつつあった(もちろん彼女はピエール・フォー・ヤマモト氏には背中を向けていたので、その怪しい表情が敵に読み取られることはなかった)。

     ちょっと、ちょっとぉ、今何か面白い音が鳴らなかったかしらぁ?

     彼女が自分で確認するまでもなく、確かに面白い音は鳴った。
     あれは何の音だ。あれは何の音でしたでしょうか?
     鷹野は自分自身に問いかけた。
     あれは『うちゅーじんさん★見つけたんちき』の音だ。
     あれ? 何で? どうして?

     少しの間、不気味な沈黙があった。
     鷹野はピエール氏に背中を向けたまま、にやぁと笑った。

    「それじゃあピエールさん、ちょっとくつろいで待っててくださるかしら」

     今にも笑いだしそうな震え声を抑えながら、鷹野は言った。

    ピエール氏(No.04)「ええ、お待ちしておりますよ。焦らず、ゆっくりとね」

     ピエール氏――No.04もまた、鷹野に負けず劣らずの嫌な笑みを隠しながら、彼女に答えた。





     ピエール氏にもらった毒入りお菓子の詰め物を脇に抱えて、鷹野は黒崎くんと一緒に台所に入った。彼女はさっそくぶつぶつと呟きながら、隣の部屋から奇妙な機械を持ち出してきた。その機械にはモニターのようなものがついており、鷹野はその機械の中央辺りにある赤いボタンをぴっぴと押した。
     その時、黒崎くんから少し邪魔が入った。彼は鷹野三佐がすでに、あの超危険で超迷惑で超暇で、ついでに言ってしまうと、超パーな鷹野三佐に戻りつつあるということにはまだ気付いていなかった。

    「三佐、さっそくなんですが、ちょっとお話が――」

    「うるさい」

     うるさい黒崎をパカッと殴りつけて、彼女は自分の作業に没頭した。
     黒崎くんは突然のことで少し怯んだ。
     鷹野は機械のモニター画面にじっと目を凝らした。
     やがて、機械からぴぴっという体温計のお知らせ音みたいな音が小さく鳴った。





    『半径50メートル以内に、うちゅーじんがいるよ☆ うちゅーじんさんが君のすぐ近くにいるんだよ☆』





    「やっぱーーーーーーーり!」





     鷹野の背後で歓喜の活火山が大爆発を起こした。
     機械のモニター画面には、竜宮レナふうの可愛らしい文章表現がおどっていた。

    「あの、それ何なんですか、三佐……?」

    「『うちゅーじんさん★どこどこ検知器』」

     鷹野はお気に入りのおもちゃを買ってもらった子供のように、嬉しそうに言った。
     黒崎くんはそんな鷹野の雰囲気に一瞬飲まれそうになったが、彼はすぐに冷静な自分を取り戻して、鷹野に言った。

    「三佐、ちょっと俺の話を聞いてください。あのピエールさんって人なんですが――」

     が、黒崎くんは不意に口を閉ざした。彼は何だか嫌な予感がした。そういえば鷹野の目がどことなく、いつものあの三佐のものに戻っているような……?

    「ふふふふふふふふふふふふふふふ」

     突然、鷹野三佐が不気味な笑い声をたてた。
     黒崎くんはぎょっとした。

    「うちゅーじんさんだわー、ついに本物のうちゅーじんさんに出会えたんだわー★」

     鷹野三四は確信した。
     今朝、探知機に反応した『うちゅーじんさん』はあのピエールさんだったんだ!
     これは世紀の一大発見よ。
     捕まえよう、捕まえるわ、絶対捕まえないといけないわ!
     怪しい文法の三段活用が鷹野の頭の中で唱和した。
     そして彼女は最後に、

    「捕まえてレナちゃんに見せたら、喜んでくれるかしらー★」

     そんな鷹野三佐を見ていると、黒崎くんは何だかだんだん怖くなってきた。
     い、いつものあの鷹野三佐だ。よ、良かった、あ、あの『鷹野三佐』が戻ってきてくれたんだ……いや、待て、果たして本当にこれで良かったのだろうか……?

    「相手がうちゅーじんさんだとすると、何だかこれが怪しいわねぇ」

     鷹野はピエール氏からもらった毒入りお菓子の詰め物を、かさかさと縦に振った。どことなく乾いた音がする。鷹野はその毒入りお菓子の包みを開けた。彼女はその菓子の中から一つを手に取って、近くにあったオーブンのような形をした箱の中に入れた。そして側に据え付けられてあったコンピュータを起動して、彼女はモニター画面の前で、CPUが立ち上がってくるのをしばらく待った。(この昭和五十八年という時代には、現在我々が使っているような性能の良いパソコンなどもちろん存在するわけがない。だからこのコンピュータは、鷹野三四が生み出したものである。彼女の豊富な知識はもはや神の領域にまで達しているのだ)
     さて、ここで少し説明を入れておかなければならない。
     鷹野がたった今毒入りお菓子を入れた、オーブンのような形をした箱――これはありとあらゆる物質の成分や性質、化学式や構造などを分析できる超ハイテクマシン、『湯川5号くん』だった。このマシンで分析されたデータは、全て鷹野のコンピュータへと送信され、モニター画面上でそれらのデータを余さず参照できるという素晴らしい仕組みになっている。しかもこの成分分析マシン、何と驚くべきことに、物質の化学式や構造の仕組みを書き換えることまで出来てしまうのだから、世にも恐ろしい。この超ハイテクマシンを生み出したのはもちろん鷹野三四本人である。山狗の前隊長である小此木に言わせると、彼女は百万年に一度生まれるかどうかの大天才なんだそうだ。

     ぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこ。

     鷹野の成分分析マシンから怪しい音が鳴っていた。
     黒崎くんは嫌な予感を抱えながらも、その様子をぼんやりと眺めていた。
     鷹野はコンピュータのモニター画面に映し出されてきた、得体の知れない化学式に目をやった。もう改めて言うまでもない。この化学式は宇宙で最高の神秘の毒薬、『イチコロバスター』のものに他ならない。

    「ふむふむ、ふんふん♪」

     鼻歌混じりに、その毒物の成分を信じられない思考速度で読み込んでゆく鷹野三四。
     鷹野による恐るべきカウンター毒々作戦が、今、開始のゴングを告げていた。

    「やっぱり何か仕込んでると思ったけど、これってちょっと普通じゃないわね〜。うちゅーじんさんの使う睡眠薬か何かかしらぁ〜。あのうちゅーじんさん、色々と嘘ついて、身元まででっちあげたりして、きっと私を拉致する気なんだわぁ♪」

     敵の真の思惑については全く的をはずしている鷹野だったが、それでも彼女は「自身の身の安全をはかり、相手をやっつける」という最大のポイントだけは十分に押さえていた。
     黒崎くんはそんな彼女の様子を、嫌な予感をまじえつつも見守っていたが、彼は突然、天啓のようなある一つの真実――決定的な答えに思い至って、体をぶるぶると震わせはじめた。

     まずい……黒崎くんは冷や汗を流しながら思った。
     まじゅい……鷹野三佐はもう全然大丈夫だけど……今度はピエールさんの命が……危にゃい……。

     黒崎くんは一瞬、鷹野三佐の行動を止めようかとも思ったのだが、彼は呵々と笑う恐ろしい三佐を見ているうちに、何かもう全てのことがどうでもよくなってきた。

     はぁ。
     もうどうでもいーや。
     オレいちぬーけた。
     だいたいあの鷹野三佐がひどい目にあうわけなんかないし。
     三佐の邪魔したって、オレが被害受けるだけだし。
     ピエールさんには申し訳ないっすけど、鷹野にケンカ売る方が悪いってことで……諦めてね。

     さすがは日頃から鷹野や部活メンバー達に、散々な目にあわされている山狗の若き隊長黒崎彰吾くん。思考を切り替える速度が以前とは比べものにならない。清々しく、そして爽やかに、責任放棄、現実逃避するタイミングが実にお見事――完璧だ。毎日、雛見沢に巣くうモンスターズの脅威に脅かされているとはいえ、彼も日々順調にレベルアップしているのだ。

    「ここをちょっと改造してぇ〜♪」

     さて、鷹野三四だが、彼女はコンピュータのキーをかちゃかちゃと叩いて、モニター画面に映し出されてきた毒薬入りお菓子のデータに何か色々と手を加えていた。成分分析マシンが、物質の構造や化学式を書き換えられる、超ハイテクマシンだということは先程言った。鼻歌混じりに、神秘の毒薬『イチコロバスター』の科学式を、いびつな怪しい構造に変形させてゆく鷹野三四。
     宇宙人ピエール氏に差し出される予定の菓子は、『イチコロバスター』の式をさらに難解にした、えげつないものになってしまった。ちなみに鷹野自身が口にする菓子は、塩化ナトリウムがちょっと多いだけの、ごく安全なものへと変えてゆく。

     自分は絶対安全よっ☆
     相手にはババを押しつけてっ★

     これが雛見沢流(鷹野三四派)のやり方である。
     今さら改めて言うまでもないことだが。

     そうして鷹野はうちゅーじさんのために魔法のお菓子を用意してあげると、今度は、この世にまたとなく素晴らしい味わいのする、コーヒー、紅茶の製造にとりかかった。
     ここで鷹野は手近にあった瓶をたぐり寄せて、その中からいくつかの錠剤を手に取った。
     ここで「待ってました」などと、私は不謹慎なことを言うつもりはない。
     しかしここはやはり、待ってました、という言葉があまりにもふさわしいような気がする。
     鷹野が手にしたのは、この宇宙で最高の神秘の毒薬『イチコロバスター』にも引けをとらない、この宇宙で最高の神秘の劇薬『ねこピタンX』だった。
     鷹野が開発したこの劇薬に関しては、今さら説明するまでもないかもしれないが、ご存知でない読者様のためにちょっと解説させていただくと、これは一時的にとんでもない副作用を引き起こす、まあ一言で言うと、睡眠薬のようなものであった。
     以前、古手梨花ちゃまがこの危なっかしい薬を使って、大々迷惑事件を起こしたどーでもいい黒歴史がある(参照文献→No59986,60092,60159,60307,60338)。その事件の時に、この『ねこピタンX』の恐るべき効能はすでに実証済みである。しかもその薬物事件の時、梨花がコツコツとデータを収集してくれていたおかげで、鷹野はそれほど苦労することもなく、ねこピタンXの効能をさらに発展させることに成功した。

     その第一号が『いぬピタンY』
     これはねこピタンXの副作用をさらにえげつなくした、しかも味付けにもこだわっている鷹野三四自慢の一品である。
     ところで鷹野にはさらなる切り札があった。

     『かばピタンZ』

     一口飲めば、カバ確定。
     鷹野に言わせると「パー確定」だそうである。

     ふふふふふふふふふふふと楽しそうに笑いながら、それらのとんでもない劇薬をひとまとめにしてカップにぽいぽいと放り込んでゆく鷹野三四。薬物入り紅茶とコーヒーの美味しい味付けのやり方は、以前に梨花ちゃまから教えてもらっていたので、特に何も心配はいらなかった。

     ――紅茶なら、ここにあと二つほど薬を入れて、レモンで香りを誤魔化してやればいいのですよー★
     ――こーしー(コーヒー)の場合は砂糖をたっぷりと入れて、味を統一してやればいいのです★


     確か梨花ちゃんがそんなことを言っていたような気がするので、鷹野はその古手先生の教えに素直に従うことにした。その結果、イッツミラクル、な、格調高い味わいのする、毒々紅茶と毒々コーヒーが完成し、あとは客人であるピエール氏のために、それを捧げるだけだった。

     黒崎くんは思った。
     あーあ。ピエールさんの運命はもはや決まってしまったのだ。
     あーあ。可哀想に……でも、どうだっていーや。
     オレもうこの件とはなーんにも関係ないし。

     黒崎くんはこれからふつふつと沸いてくるであろう、様々な責任問題を全てまる投げした。
     そんな彼の側で、奇跡の飲み物を完成させた鷹野が、ふふふふふふふふふふふふと不気味に笑っていた。












    「お待たせいたしました〜★」

     鷹野三四がキラキラと輝く瞳で再び部屋に姿を現した。
     彼女の手にはお盆、その上には二組のお皿と飲み物のカップ、それからポットがのせられてあった。
     お皿の上にはピエール氏からいただいた、あの毒物入りのお菓子がのせられている。
     鷹野の後ろからは、何やら疲れたご様子の黒崎くんが顔を見せた。

    ピエール氏(No.04)「おお、タカノさん、何やら随分と時間がかかっていたようですが……?」

     No.04――ピエール氏は少し訝しく思い、鷹野に聞いた。

    「ええ、ええ、飲み物の香りづけに、ちょーっと手間取ってしまいましてっ★」

     ぬけぬけと実にうまいことを言ったものである。
     私、嘘はついてないわよー★
     鷹野は心の中でピースサインした。



     鷹野とピエール氏(No.04)は向かい合って座った。
     「紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?」と鷹野が聞くと、ピエール氏は「本来ならばここで私は紅茶を希望するところですが、今日はあえてコーヒーにしておきます。久々に日本のコーヒーを口にしてみたくなりました」と答えた。
     そこで鷹野はカップにコーヒーを注いで、彼のために差し出した。
     黒崎くんはそんな彼らの近くに席をとり、自分は安全なブラックのコーヒーをたしなむようにちびちびと口に運んでいた。

     うーむ、これから一体どうなるんだろう……?

     黒崎くんにはもはやこの不毛な戦いの結果は見えているような気がしたが、それでも彼は、鷹野が自分の想像している以上に暴走しやしないかと、冷や冷やしていた。
     そして鷹野の標的であるピエール・フォー・ヤマモト氏(No.04)だが――彼は今、目の前の鷹野という人物に対して、少し違和感を覚えていた。
     『タカノ・ミ・ヨー』の雰囲気が、何だか先程とは違うような……?
     しかしNo.04はそれ以上の考えには思い至ることが出来なかった。

     くっくっくっ、まあ、いい。
     これからタカノは、あの『イチコロバスター』入りの菓子を口にすることになるのだからな……。

    「それにしてもピエールさんは、どこのお生まれなんですかぁ?」

     どちらもが相手の出方を探り合って沈黙する中、先制攻撃を仕掛けたのは鷹野だった。
     彼女の企みを知っている者にしてみれば、ものすごく不自然に聞こえる声だ。

    ピエール氏(No.04)「私の生まれですか」

     しかしそのような質問はこれまで何度も耳にしてきましたよー、と言わんばかりに、ピエール氏(No.04)は平然とこれをやり返した。

    ピエール氏(No.04)「私はロンドンの隅っこの方で生まれましてねぇ。幼少の頃はそこでよく遊び、よく学んだものです。日本でいうところの、アパートメントのような部屋で過ごしたのを今でも覚えています。父は日本人です。今でも貿易商を営んでおります。母はイギリス人でして、若い頃は母国語の教師を務めておりました」

    「へぇ、お父さんは貿易商、お母さんは学校の先生ですか……純粋な日本人の方かと思ったんですけど、ハーフの方だったんですね」

     相手の話にさも感心したような素振りを見せて、皿の菓子に手をつける鷹野三四。
     彼女はそれを無意識とも思える動作でゆっくりと口元へと運んでいった。
     ピエール氏(No.04)の顔色が、いよいよ期待に膨らんで輝いた。

     よーし、いいぞ……!
     これでタカノはもう終わりだな……!

     ピエール氏(No.04)は心の中で歓喜の声をあげて、小躍りしたくなった。
     しかし……

    「ところで」

     と、鷹野三四は、いったん途切れてしまった話を無理矢理繋げるかのように、何と、口元まで持ってきていた菓子を、また皿の上に置き直した。No.04の顔は一瞬驚愕に青ざめたものの、彼はすぐに内心でちっと舌打ちをした。

    「あらぁー? どうかされましたかぁ?」

     白々しくもそんなじめっとした調子でピエール氏に尋ねる鷹野三四。
     ハッタリのきいた、もの凄くいい笑顔だった。

    ピエール氏(No.04)「いえいえ……お気になさらず。今日は少し頭痛がしましてねぇ」

     No.04は本当に頭痛がしてきそうな気分だった。
     彼は低く唸るような声で鷹野に返しながら、こう思った。
     くそっ、何とも神経の参る一日だな……いつもなら、こう……もっとスムーズに事が運ぶはずなのだが、今日はどうも調子が悪い……。

    「あらー、それはいけませんわねぇ。すぐにでもよく効くお薬をお持ちいたしましょうかぁ?」

     またまた白々しくもピエール氏に声をかける鷹野三四。

    ピエール氏(No.04)「いえいえ、本当にお気になさらず」

     No.04はこれ以上のらりくらりとやっていると、タカノを始末する機会を永久に逃してしまうぞ、と内心冷や冷やしながら思った。そこで彼は必殺の切り札を出すことにした。

    ピエール氏(No.04)「では時間ももうあまりありませんことですし、本当に一杯だけいただくことにします」

     彼はわざとらしい手振りで腕時計に目をやって、それからゆっくりとした手つきで、まずは皿の上にのせられてある菓子を取った。
     その菓子に超危険な毒物『イチコロバスター』が含まれていることを、彼は知っている。
     が、彼はまだ知らない。その菓子に超々危険な『改造型イチコロバスター』が含まれていることを……超危険な毒物の化学式は、悲しいことに、鷹野三四の手によって、超々危険なものに更新されてしまっているのだ。

     ――敵を油断させるには、まずはこちらから事を起こすことが肝心だ。

     No.04は思う。相手に腹を見せて、油断を誘うのは、策略の基本である。この菓子が安全な菓子であることを敵に示してやれば、相手もそれにつられてふと口にしてしまう。

     くっくっくっ、タカノ・ミ・ヨーよ、お前の命はもはやこれまでだぞ。

     No.04は一瞬、タカノがこちらのことを疑っているのではないかと思った。しかし彼はそれでもいいと思った。彼女のその疑いは今にも解ける。こちらが手本を示してやればな……くっくっくっ。

    ピエール氏(No.04)「ではいただきます、タカノさん……うむ、これはうまい」

     No.04はついにあの、改造型イチコロバスターの菓子を口に入れてしまった。
     彼はそれをゆっくりと咀嚼して、甘すぎることのない豊潤な味わいを満喫した。
     そして彼はこう思う。
     自分だけは予防解毒剤を飲んでいるから大丈夫、と。
     しかしその思惑こそが全くの大はずれなのだ。

    「あら、本当ですかぁ?」

     鷹野もねちっこそうな口調でそう言って、菓子を手に取り、それを自分の口元へと運んだ。
     そして彼女は菓子を頬張ると、No.04と同じようにゆっくりと咀嚼した。

     やった……!

     その瞬間、No.04は心の中で万歳した。
     ついにタカノがあの毒入り菓子を口に含んだぞ……!
     さてさてさてさてさてさてさてさてさて……! ここからが忙しくなってくるぞ。
     『イチコロバスター』は即効性の毒物……効き目があらわれるのに、ものの一分とかかるまい……くっくっくっ、そろそろ引き上げ時だな。

     しかし、しかし……何かがおかしかった。
     何か、時間そのものが凍りついてしまったかのような感覚だった。

     ……?

     No.04は不思議に思い、一瞬、首を傾げた。





























    「うーん、本当に美味しいお菓子ですことねぇ。紅茶との取り合わせが、素晴らしいですわ」

     No.04の顔からさーっと血の気が引いていった。
     タカノ・ミ・ヨーは、何だか、何というか……まだ全然平気そうに、ピンピンとしていた。





     な、

     な、

     な、

     何だとぉぉぉぉぉぉぉ……!!?
     お、おかしい……これはいったいどういうことだっ?!!
     イチコロバスターの効能は即効性のはずだぞ……?!!

    「あらぁ? ピエールさんはコーヒー飲まれないんですかぁ?」

     もう全てのことを知っているくせに、この期に及んでもまだ白々しく、にやにやとしながらピエール氏に尋ねる鷹野三四。

    ピエール氏(No.04)「い、いえいえー……も、もちろんいただきますとも……」

     No.04は気が気ではなく、鷹野の出してくれた奇跡のコーヒーに無意識に口をつけた。
     しかしこれがまたいけなかった。

     くそっ、まさかとは思うが、菓子にイチコロバスターを仕込むのを忘れたのだろうか……?

     No.04の頭の中では、何故だろう、何故なのだろう、と疑問ばかりが駆けめぐった。

     馬鹿な……この全宇宙の支配者たるにふさわしい、12ナンバーズの一人、No.04ともあろうものが、こんな下らない失態をおかしてしまったのか……?
     くそっ、何ということだ……!!!

     しかしNo.04にとってはそれ以上の大問題があった。
     彼の体のあちこちではすでに、改造型イチコロバスターと、ねこピタンX、いぬピタンY、そしてかばピタンZ、これら全ての超危険薬物が一つにミックスされ、ぐるぐると回りはじめていたのだ。それらのほとばしる薬物の効能はすぐに異常な症状となってあらわれてきた。

     な、何だ……?

     No.04は自分の体に違和感を覚えた。

     は、腹が痛いぞ……?

     彼は嫌な予感がした。
     ま、まさか、これはイチコロバスターの症状……?
     い、いや、違う……イチコロバスターには腹痛の症状はなかったはずだ……!
     で、ではこれはいったい……?!!

     No.04はさらに目眩がし、気分まで悪くなってきた。
     にゃーにゃーにゃー!!! 猫の鳴き声が頭の中から聞こえてきた。
     わんわんわん!!! どこぞのうるさい犬が、あちらの世界から、No.04のことを呼んでいた。
     ぐわーーーーん!!! カバが大あくびして、その大きな声が彼の耳元でガンガンと鳴り響いた。
     No.04の体が平衡感覚を失い、ぐらりと傾いた。

    ピエール氏(No.04)「ぐっ、ぐおおおおおおお!?? こ、これはいったいっ!!?」

    「おやぁ? どうかされましたかぁ?」

     余裕しゃくしゃく、嫌らしい笑みを浮かべて、そう尋ねてくる鷹野三四。
     No.04は咄嗟にはっとなって、菓子ののっていた皿に目をやった。
     それから彼は自分が口をつけたカップの中身に、ぶるぶると手を震わせながら目をやった。

    ピエール氏(No.04)「ま、まさか……」

     No.04の顔が見る見るうちに青ざめていった。
     鷹野はもう堪えきれなくなって、ぷっと吹き出した。





    「あらあら〜!!!

    本当にどうしちゃったのかしら〜(≧∇≦)

    あなたメチャメチャいい顔色してるわよーっ!!!」





    「ぶっっっっっ?!!

    こ、このコーヒーいいいいっ!!?

    まさか貴様がぁぁぁぁっっっ?!!」






     ピエール氏――いやNo.04は、もはや全てのことを悟って愕然とした。彼の頭の中では超危険薬物混合ミックスが暴れ狂い、危険な幻覚症状となって、ガンガン神経にクラッシュしていた。



     にゃーにゃーにゃーうにゃにゃにゃにゃにゃ!!!

     わんわんわんわんおんおんおんがおーがおー!!!

     ぐわーーーーーーーん!!!

     ぐえーーーーーーーーん!!!

     ぐおーーーーーーーーーん!!!




     いかれた壮大なオーケストラだった。
     そこへさらに度を越した、改造型イチコロバスターの腹痛症状が、No.04の胃腸へと直撃した。





     ぐはあああああああっっっ?!!





    ピエール氏(No.04)「だ、だ、だ、駄目だ……!!! こりゃあああ駄目だぁぁぁ……!!! み、水……い、いや、解毒剤だっ……!!! 頼むっ!!! 解毒剤を持ってきてくれーーーーっっっ!!!」

     何とか声を張り上げて、解毒剤を要求するピエール氏。

    「ん? 解毒剤ほしいの?」

     お茶目な声で鷹野は言った。
     しかし気の利く彼女が解毒剤ではなく、一振りの金属バットを持ち出してきたことは、もちろん言うまでもない。















     パッカーーーン!!!

















    「黒崎隊長っ!!! 証拠隠滅でありますっ!!!(≧∇≦)」

     全ての仕事を終えた後、鷹野三四は何の悪気もなく、うちゅーじんさん撃沈の任務完了を黒崎くんに告げたのであった。

     あーあ、やっぱり……。

     これまでの一部始終をすぐ近くで見ていた黒崎くんは、どーせこんなアホらしい展開になるんだろうなぁ……とはわかっていながらも、目の前で完全にノックダウンしてしまったピエール氏を、気の毒に思わずにはいられなかった。
     梨花とNo.05の戦いの時、私はあのケンカを質の悪い最悪なものであると語ったものだが……あれ訂正っす、全くの間違いでしたわ。鷹野のケンカのセンスの悪さは、私がこれまで目にしてきたどのケンカと比べてみても、他に類を見ない史上最悪なものだった。鷹野はぶっ倒れているピエール氏の体をぎゅむっと踏みつけながら、をーっほっほっほっほっと高笑いして、黒崎くんに次の指示を出した。

    「黒崎ちゃん、山狗全隊員に命じて、ピエールさんがここへやって来た痕跡、何もかも消しちゃって★ ピエールさんはここへはやって来なかった。この診療所に『うちゅーじんさん』なんてやって来なかった。これは世紀の一大研究のためなのっ、おねがーい★」

    「へいへい」

     黒崎くんはため息まじりに鷹野に答え返した。
     まーた、鷹野の新しい遊びがはじまったぞ……んなアホらしいことのために、山狗の隊員を一々駆り出すのは迷惑だからやめてほしいものである……と言いたいところだが、そんなことを一言でも口にすれば、黒崎くんに被害が及ぶことはまず必至だったので、彼はそこは口を噤んでおくことにする。

    「取りあえず周辺の物証もみ消して、適当に情報操作でもしとけばいいっすかねー」

     黒崎くんは今日はもう家に帰って寝込みたい気分だった。

    「おねがーい★」

     おねだりする魔女っ子の声で鷹野三四は黒崎に言った。
     不毛な毒々合戦はこうして静かに終わりを告げたのである。
     そしてNo.04――ピエール・フォー・ヤマモト氏は、この日、雛見沢の主婦達の間で、「今日余所からやって来たあの人、鷹野さんちで鬼隠しにでもあったんじゃないかしら〜!」などと噂され、笑い者にされた。

     12ナンバーズの一人、No.04。
     ねちねちとしたしょーもない心理戦の末、鷹野のパーな奸計に引っ掛かって、撃沈(リタイア)
     梨花と鷹野を亡き者にせんと、意気込んでやって来たNo.05とNo.04だったが、彼らはいきなり返り討ちにされてしまった。
     地球侵略作戦が開始されてから、わずか数時間後のことである。
     ナンバーズ側は早くも二人の精鋭を失った。








     TIPSを入手なのです☆



     ナンバーズについて(その1)→→→No63178






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